2015 Fiscal Year Annual Research Report
有害重金属汚染された基盤に自生する地衣類における生物圏―地圏相互作用
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15J04570
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
末岡 裕理 愛媛大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 土壌重金属汚染環境指標 / 地衣類 / 廃止鉱山 / 銅,亜鉛,ヒ素汚染 / 銅,亜鉛,鉛硫化鉱物 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は平成27年度科研費を用いて,重金属汚染された廃止鉱山地域および非汚染地域に自生する地衣類およびその生育基盤を対象として,①地衣類の生育基盤の構成鉱物の同定,②地衣類中の重金属蓄積部位の推定ならびに③地衣類および土壌重金属濃度の関係の解明を行い,地衣類の土壌重金属汚染環境指標としての有用性の評価を行った.なお,これまでの研究には,粉末X線回折(XRD)装置,エネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDS),蛍光X線装置(XRF),誘導プラズマ質量分析装置(ICP-MS),量子線励起X線分析装(PIXE)およびEZR(統計解析ソフト)を用い,試料作製から分析・解析まで,ほぼ全てを応募者が行った. XRD分析の結果,重金属に富む地衣の生育基盤は,銅,鉛および亜鉛の硫化鉱物ならびにこれらの二次鉱物を含有していることが分かった.SEM-EDSによるマッピング分析結果は,これらの鉱物から表層水および間隙水に溶脱した重金属が地衣に吸収され,菌糸細胞およびその表面に分布している可能性を示唆した. 土壌に自生する地衣類のCu,Zn,AsおよびPb濃度は,生育基盤のそれと統計学的正の相関を示した.このデータを元に,各サンプリング地点における地衣類およびその生育基盤の平均重金属濃度分布図を作成し,その分布を比較することで土壌重金属汚染環境指標としての有用性を評価した.その結果,地衣類を用いて土壌のCu,ZnおよびAs汚染を検出することができた. したがって,今までの研究で,地衣類が土壌のCu,ZnおよびAs汚染の環境指標生物としての有用性を有していることが明らかとなった.地衣類は砂漠から極域まで様々な環境に自生しているため,地衣類を用いた環境評価は,様々な地域の汚染評価およびモニタリングにおける低コスト且つ低環境負荷な方法として有用可能性を秘めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
科研費申請時の研究目的は,“①地衣類が関与しない基盤の風化過程および地衣類が関与する風化過程における重金属の挙動を比較し,地衣-基盤相互作用における重金属の挙動を明らかにする.②地衣体内における重金属の存在形態を明らかにし,その安定性および挙動を考察する.③地衣類およびこれに対応する生育基盤の重金属濃度相関を明らかにすることで,地衣類の生育基盤の重金属汚染に対する環境指標としての有用性を評価する,また,以上の結果に基づき,土壌重金属濃度マップを作成する”であった.本研究は現在までに,目的の①を概ね達成し,③における重金属濃度相関を明らかにした.また,各サンプリング地点における地衣類および土壌の平均重金属濃度分布図の作成を行い,環境指標としての有用性の評価を進めている. 目的②に関しては,今までに地衣体内における重金属分布から,ある程度の推察を行っており,今後,その確認および詳細の解明を行っていく予定である.また,環境指標としての有用性評価に関して,今後,室内実験に基づく,地衣類の重金属吸収メカニズムの解明や吸収された重金属の形態の解明を行っていく予定である. 以上の理由より,“おおむね順調に進展している”を選択した.
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Strategy for Future Research Activity |
現在,申請時の研究目的として残っている問題は,①地衣体内に吸収された重金属の存在形態の解明および②地衣類を用いた土壌重金属汚染分布図の作成である.①に関しては,透過型電子顕微鏡(TEM)およびX線分析装置を用いて,地衣体内に認められた重金属に富む微細鉱物(もしくは非結晶物質)の解明を行っていく予定である.また,必要に応じて,X線微細構造解析(XAFS)装置などを用いて,重金属の形態解析を行える準備を行う予定である. 環境指標としての有用性評価に関しては,室内実験に基づく,地衣類の重金属吸収能力およびそのメカニズムの解明や吸収された重金属の形態の解明を行っていく予定である.また,現在までに,西日本10カ所における平均重金属濃度分布を調査したが,今後は更に調査地域を増やし,より詳細な重金属濃度分布図の作成を行っていく予定である. 上記研究成果は,随時国内外の学会発表および雑誌への投稿を通して社会に還元していく予定である.
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Research Products
(5 results)