2015 Fiscal Year Annual Research Report
イミド複合型超原子価ヨウ素を用いた天然物合成志向型反応の開発
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15J04745
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
石田 一馬 千葉大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 超原子価ヨウ素 / アミノ化反応 / ハロゲン化反応 / インドール / 医薬品合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、医薬品合成に利用できる超原子価ヨウ素を用いた炭素-水素結合を炭素-窒素結合に変換する反応を開発することである。 近年、環境低負荷型社会への転換が求められている中で、有機合成化学の分野においても環境面への配慮が非常に重要な課題の1つとなっている。有機化学の分野で重宝されている重金属試薬は、様々な特異的な反応を進行させる非常に有用な試薬であるが、環境や生体への悪影響が懸念されるため、これらに代わる試薬の開発が現在盛んに研究されている。特に、超原子価ヨウ素化合物は、重金属と似たような性質を示すことから、重金属代替試薬としての利用が期待されている。しかし、超原子価ヨウ素の医薬品合成への利用は置換基を酸化する酸化剤としての役割がほとんどであり、新しく結合を形成する反応を利用する例は少ない。そこで私は、医薬品骨格に多く含まれるインドールをターゲットとし、新しい医薬品化合物の合成ルートとなる窒素官能基を導入する反応を探索した。 その結果、独自開発したインドールを含む超原子価ヨウ素を中心とした3つの天然物志向型反応の開発に成功した。具体的には、超原子価ヨウ素とハロゲン化剤を組み合わせたハロ-アミノ化反応と、カップリング反応によるアミノ化反応である。いずれの反応もインドールの炭素-水素結合を位置選択的に炭素-窒素結合に変換でき、ハロ-アミノ化反応ではもう1つの炭素-水素結合を炭素-ハロゲン結合に同時に変換することができる。本年度はカップリング反応の最適条件の探索において、反応点周辺の環境を変えることで反応をコントロールできることを発見した。また、ハロ-アミノ化反応では得られた生成物が実際に医薬品合成へと利用できるか確認するために、医薬品によく見られる骨格へと誘導できる変換ルートを開拓した。さらに、反応機構の解明にも着手し、想定していたよりも複雑な機構であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インドールのブロモ-アミノ化反応では得られた生成物の医薬品骨格への誘導化、インドールのベンジル位へのハロ-アミノ化反応では反応条件の最適化、基質一般性の確認、反応機構の検証を計画していた。 ブロモ-アミノ化反応の誘導化では、2つの誘導化のプロセスを発見した。1つ目はハロゲン-リチウム交換反応を利用した求電子剤との反応である。本反応を用いることでインドール誘導体から僅か2工程で2つの水素原子を窒素原子と炭素やケイ素原子に置き換えることができることが示された。2つ目はα,β不飽和イミンを経由する誘導化である。生成物をα,β不飽和イミンへ誘導し、この化合物からスピロ化合物、6員環を構築できることがわかった。これらの構造は天然物の基本骨格であり、本反応生成物が誘導化によって生理活性物質へ展開できることがわかった。これらの成果はChemical Communication誌に掲載された。 ベンジル位へのハロ-アミノ化反応については、最適条件を見出し、その最適条件を基に基質検討を行ったところ、様々な置換基で目的物が得られた。しかし、一部の基質で収率の低下が見られたため、収率改善を目指し、反応機構の検討を行った。検討の結果、申請書提出時の想定とは異なる機構であることが示唆された。想定していた反応機構に加えて別の機構が競合しており、詳細な反応機構の解明に予定より時間がかかってしまった。この2つの過程の詳細と、どちらが主過程なのかなどついてはまだわかっていない点もあるが、今までの知見を活かし、複数の化合物について収率の改善ができた。 一方で、上記2つの反応に加えて、銅触媒を用いた炭素-窒素カップリング反応によってインドールの3位に窒素官能基を導入することに成功した。さらなる有用性の展開は次年度の予定であったため、これについては予定より早く進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
インドールのベンジル位へのハロ-アミノ化反応については反応機構の検証を第一に行い、その後収率の改善を行い、医薬品への誘導化を行う。 申請書提出時に想定していた反応機構に加えて別の機構が競合していることは突き止めたが、この2つの過程の詳細と、どちらが主過程なのか、基質によってその偏りに変化があるのかを検証することが今後の目標である。特に、反応点であるベンジル位が1級炭素と2級炭素とでさらに反応機構が異なっていることが示唆される結果も得ており、なぜ異なる機構を経るのかについても集中的に検討する。一方で、すでにこれらの知見を活かし、複数の化合物について収率の改善ができたことから、まず反応機構の詳細を調査することに主眼を置き、その後収率の改善や基質一般性の拡大を図り、最終的に論文投稿を行う計画である。加えて、7月に本研究を超原子価ヨウ素専門の国際学会で発表することが予定されており、他の研究者の意見も取り入れて研究を加速させる。また、医薬品への誘導化については目標とする化合物を決定し、文献を参考に合成ルートも策定した。今後は必要な試薬を購入し、医薬品の全合成は時間がかかることが想定されるため、反応機構の解明と同時並行で研究を進めていく予定である。 銅触媒を用いたインドリル(アリール)ヨードニウムイミドの炭素-窒素カップリング反応については、超原子価ヨウ素の隣接官能基によって反応の選択性が変化することがわかっている。X線結晶構造解析の結果、反応を制御している可能性のある相互作用がみられることから、今後具体的な効果の検証と条件の最適化、基質検討を行い、論文として投稿する予定である。
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Research Products
(1 results)