2015 Fiscal Year Annual Research Report
脂質膜内添加物の役割の解明:構造熱力学モデルによる統一化
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15J04751
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中澤 暦 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 熱力学 / リン脂質 / 脂質膜内添加物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、細胞膜中に埋め込まれている添加物の役割について解明することを目的としている。細胞膜中で働く添加物は、それぞれが異なる効果を発揮し、表面張力などの物性を大きく変化させる。本研究では、膜の表面張力、膜透過性、脂質分子の拡散の三つの主要な物性に対する添加物の効果を、熱力学量という共通の変数で書き表すことによって、添加物効果の本質を探ることを目的としている。細胞膜の主要構成分子であるリン脂質で作成した人口二重膜を細胞膜モデルに用いる。今年度の研究計画は①添加物の選択、②熱力学量変化の測定、③膜構造・脂質ダイナミクスの変化の測定、④上に挙げた三つの主要な物性の測定であった。今年度はまず、申請者らの過去の研究を参考に数種の添加物を選択し、②、③まで行うことができた。②、③での測定結果から、熱力学量変化をモデルの変数として用いる上での問題点が新たに見つかった。今年度は④の測定を見送り、問題解決を優先して行った。 リン脂質二重膜へのn-アルカンの添加実験では、アルカン添加によって起こる熱力学量(エンタルピー)の変化が構造(脂質分子のパッキング)と強く関係していることが分かった。この結果は、本研究が目的とするモデル構築に大きく繋がる成果の一つである。一方で、分枝アルカンの膜への添加では、熱力学量の変化が正確に測定できなかった。本研究では物性を書き表す変数に、脂質二重膜のゲル相から液晶相への相転移の熱力学量変化を用いる予定であるが、分枝アルカンの膜への添加では、ゲル-液晶相間に中間相としてキュービック相が新たに発現した。ゲル-液晶相間の熱力学量変化を決定する際に、中間相をどう取り扱うか検討する必要があるため、現在この問題解決に注力している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は新規添加物を用いて実験を進めることができ、中でもn-アルカンの添加実験からは今後構築するモデルの足掛かりとなる情報を得ることができた。一方で、分枝アルカンの添加実験では、モデルの変数として用いたい熱力学量変化が正確に測定できないという問題が生じた。現在問題解決に取り組んでいるため、予定より少し遅れているが、実験結果は順調に得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究で、膜内添加物の効果を書き表すモデルの変数となる熱力学量変化が正確に測定できない系があるという問題が浮上した。これは、膜への分子添加により相挙動が変化してしまうことが原因になっていることが分かった。本研究の目的であるモデル構築では、ゲル-液晶相転移を熱力学量変化の測定対象とする方針である。しかし、今回添加物によりゲル-液晶相間で別の相が誘起される系が発見された。ゲル-液晶相間に別の相を経由するような系はいくつか報告があるため、今後研究を推し進める上で、この現象をどのように取り扱うべきかを検討していく必要があると考えられる。したがって、平成28年度はゲル-液晶相間で発現する相の取り扱いについての研究を引き続き行っていき、その後物性変化の測定へと移る予定である。
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Research Products
(6 results)