2015 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚情報処理システムを構成する機能的神経回路地図の体系的な解明
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15J04760
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山田 大智 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | Drosophila melanogastor / auditory processing / calcium imaging |
Outline of Annual Research Achievements |
音による個体間交信を行う動物にとって、同種由来の音情報を雑音から識別する神経機構の獲得は不可欠である。しかし、感覚器官で受容された聴覚情報が脳内の神経細胞に伝達されていく過程で、どの様な情報処理が行われているのかはまだ多くは明らかになっていない。これまで、キイロショウジョウバエを用いた研究において、聴覚一次中枢に投射する感覚細胞群が各々どの周波数の聴覚情報を受容するのかが明らかになり、感覚細胞群の周波数に対する機能的地図が作成された。さらに、感覚細胞群からの聴覚情報受容が示唆される高次聴覚神経細胞が、解剖学的に44種類同定された。そこで、聴覚一次中枢に投射し一次中枢内の活動を制御すると推察される局所介在神経細胞(AMMC-B2, AMMC-LN細胞群)に着目した。 今年度、私はまず、上記の神経細胞が感覚細胞と接続することをGRASP法により明らかにした。次に、B2細胞がどの聴覚情報を受容しているのかを検証する為に、Ca2+イメージングにより純振動刺激に対する神経活動を観察した。その結果、B2細胞は純振動刺激に応答を示した。さらに、様々な周波数の純振動刺激に対するB2細胞の応答強度は、与えた純振動刺激に対して同程度であった。これは、B2細胞は様々な周波数情報を受容することを示している。次に、特定の時間間隔(Inter-pulse Interval, IPI)を持つ音刺激に対する、聴感覚細胞とLN細胞の神経活動をCa2+イメージングにより観察した。その結果、聴覚情報を受容する感覚細胞群はより長いIPIの音に強い応答を示した。しかし、LN細胞は短いパルス音に最も強く応答を示した。さらに、蛍光免疫染色法により、LN細胞はGABA作動性であると示唆された。これらのことから、LN細胞が抑制的に下流の神経細胞を制御することにより、より長いIPI情報を際立たせる役割を担う可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究計画である1.カルシウムイメージングにより触角の振動刺激に対するAMMC-B2神経細胞の周波数特性を解明する。において、計画通りB2神経細胞の周波数特性の解明を終えた。B2神経細胞は様々な周波数の聴覚情報を受容していることが明らかとなった。2.片側の触角で受容された聴覚情報を伝達するB2神経細胞が反対側の1次聴覚中枢の応答性を制御する可能性を検討し、その制御は促進的、もしくは抑制的であるのかを解明する。において、感覚細胞とB2神経細胞の同時カルシウムイメージングによりB2神経細胞と非聴覚入力側の1次聴覚中枢を観察した結果、B2神経細胞の活動は観察されたが、感覚細胞において神経活動は観察されなかった。つまり、B2神経細胞は感覚細胞をカルシウムイメージングで観察できるほど促進的に制御しているわけではないことが明らかになった。3.膜移行型GCaMP6を発現させる為のUAS系統の作成を行う。この系統によりA1神経細胞に膜移行型GCaMP6を発現させ、聴覚刺激に対するA1神経細胞の活動を観察する。において、膜移行型GCaMP6を発現させるためのUAS系統の作成は完了した。まだ、A1神経細胞に発現させて、神経活動を計測してはいないが、蛍光抗体染色法により作成されたUAS系統を用いることでGCaMP6を膜に移行させることが出来ることを確認している。4.聴覚・視覚刺激の同時入力が可能であり、その時の神経活動を可視化できる実験系を確立する。について、これはまだ行っていない。5.1,2の結果を国内/国際学会で発表する。について、2015年7月に開催された第38回日本神経科学大会、2015年5月に開催されたThe 3rd APDRCにおいてポスター発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度から着目しているAMMC-B2神経細胞と同様の解剖学的特徴を持つAMMC-LN神経細胞についても情報処理という観点から研究を行いたいと考えている。上記2つの神経細胞はいずれも局所介在神経細胞であり、脳内の聴覚一次中枢に投射し一次中枢内の制御を行っていると考えられる。また、近年44種類の高次聴覚神経細胞が同定されたが、その内の5種類のみが局所介在神経細胞である。聴覚一次中枢の制御が示唆される局所介在神経細胞が聴覚情報処理においてどの様な役割を果たしているのかを明らかにしたい。AMMC-LN神経細胞について、この神経細胞の機能阻害により聴覚応答行動が減少することが報告されている。また、この細胞群の一部はGABA作動性の抑制性神経細胞であるということも報告されている。そこで、1.AMMC-LN神経細胞が実際に感覚細胞と接続するのかをGRASP法により検証する。2.AMMC-LNは感覚細胞からどの様な聴覚情報を受容しているのかをカルシウムイメージングにより検証し、周波数特性を解明する。この細胞と感覚細胞の周波数特性を比較することでAMMC-LN神経細胞の聴覚情報処理における生理的機能を推測する。3.ショウジョウバエ種において、重要な音情報に時間間隔(inter-pulse interval, IPI)がある。このIPIの異なる音に対する感覚細胞とAMMC-LN神経細胞の神経活動をカルシウムイメージングにより観察する。感覚細胞とLN神経細胞のIPIチューニング特性を比較することでLN神経細胞の聴覚情報処理に対する生理的機能を推測する。4.推測された生理的機能に基づいた聴覚応答行動を示すのかをLN神経細胞の機能阻害により検証する。
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