2015 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀ドイツにおける美学の誕生―修辞学と論理学からみたバウムガルテン美学の研究
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15J04767
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
井奥 陽子 東京藝術大学, 美術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 近代 / 啓蒙 / 18世紀 / 美学 / 修辞学 / 論理学 / バウムガルテン / ヴォルフ学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、バウムガルテンによる美学の創設を伝統的な修辞学および論理学の変容として捉えることによって、これまでは修辞学の焼き直しにすぎないと評価され、名称のみが利用されがちであったバウムガルテン美学の、歴史的意義を問い直すことを目的とする。そのために、バウムガルテンが美学においていかにして論理学との類比を利用し、修辞学を換骨奪胎したのか検証する。 平成27度は、修辞学に由来する「彩(figura)」の概念に焦点をあて、バウムガルテンが修辞学における彩の概念を言語芸術以外へ応用しようと試みたことを明らかにした。具体的には、講義録のなかの断片的な記述を分析し、言及されている絵画作品の同定と、古代から近代までの修辞学および美学・芸術論の関連テクストとの比較を行った。それによって、バウムガルテンは絵画における彩について具体的な表現技法を想定しながら論じていたこと、また彩の応用は初期近代の絵画論と音楽論でも部分的に行われていたが、図像や音にもあてはまる一般的な「記号表示の彩」という概念を提唱する点でバウムガルテンには独自性が認められること、これら2点を指摘した。この結果から、従来は現代修辞学において発展したとみなされてきた「視覚的彩」の理論の先駆という、新しいバウムガルテン美学像を提示した。以上の成果は口頭発表で公表後、学会誌に投稿した。 さらに次年度の研究の準備段階として、先行研究が手薄な『論理学講義』を概略的に検討した。そして、論理学とバウムガルテン美学の接点である「論証(argumentum)」の概念について、『美学』と『論理学講義』および『形而上学』における議論を整理した。それによって、バウムガルテンにおける論証の概念には1750年頃に変化が見うけられ、その変化は『美学』を契機としているという見解を得た。以上の成果は口頭発表で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目の課題を予定どおり遂行し、さらに2年目の課題である「論証」の概念について、バウムガルテンのテクストのおよその検討をすでに終えることができたため。 また当初の計画にはなかったが、バウムガルテンの『形而上学』第3部「心理学」と、バウムガルテンの弟子マイアーによる『あらゆる美しい諸技術と諸学芸の基礎綱要』の訳注を共同研究によって作成することになり、本研究テーマに関してもより広い観点から考察できるようになったため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は「論証」の概念を軸に、バウムガルテンの美学と論理学および修辞学との関連を考察する。『論理学講義』は、第1版と第2版の相違についても慎重に検討する。バウムガルテンとの比較対象としては、ヴォルフの『ドイツ語論理学』とフライアーの『雄弁術』を主に用いる。また、バウムガルテン美学の重要な源泉として、ゲスナーによるラテン語辞典にも注目する。
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Research Products
(6 results)