2016 Fiscal Year Annual Research Report
新規モデルマウスを用いた孤発性ALS病態解明と新規治療薬の探索
Project/Area Number |
15J04805
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
杉山 香織 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | グルタミン酸 / 神経変性疾患 / グルタミン酸興奮毒性 / 運動ニューロン / カルパイン / グルタミン酸トランスポーター / 核膜孔複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の創薬研究には家族性原因遺伝子を導入したトランスジェニック動物の使用が主流であるが、遺伝的背景を保つ家族性ALSは10%程度であり、90%は孤発性に発症する。孤発性ALSの病態を探るにあたり孤発性ALS患者で発現減少が報告されているグルタミン酸輸送体を脊髄特異的に欠損させた(cKO)。その結果、cKOは下肢麻痺を伴う運動障害と運動神経細胞死といったALSの病態進行によく似た表現型を呈する。27年度はcKOの運動障害と運動神経細胞死にAMPA型受容体(AMPAR)の過剰活性化が関与することを明らかにした。この結果を受けて、28年度はcKOの運動神経細胞死におけるAMPAR過剰活性化の下流機序の解明に取り組んだ。 この過程で、cKOは核の異常(核膜の崩壊、核膜孔複合体の消失)を呈することを見出した。イオンチャネル型のグルタミン酸受容体であるAMPARの過剰活性化によりCa2+の細胞内流入の増加が考えられる。近年の報告でCa2+依存性タンパク分解酵素カルパインが核の不安定性に寄与することが示唆されている。実際に、cKOマウスでは対照マウスと比較してカルパイン活性の上昇が認められ、カルパイン阻害剤SNJ-1945により核の異常や運動障害・運動神経細胞死は抑制された。このことから、カルパインの過剰活性化がcKOの運動神経細胞死に寄与することが示唆された。 今年度の研究により、脊髄でのグルタミン酸トランスポーターの減少が引き起こす細胞死の機序の一端(AMPAR過剰活性化→Ca2+流入増加→カルパイン過剰活性化→核の異常→運動神経細胞死)を解明し、本病態への治療薬候補となりうる化合物(カルパイン阻害剤SNJ-1945)を見出した。この成果を第39回日本神経科学大会でポスターにて発表した。また、上記の成果をまとめた原著論文は学術誌にて現在査読中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は、新規孤発性ALSモデルマウスである脊髄グルタミン酸輸送体欠損マウスcKOの細胞死の機序の上流にAMPARの過剰活性化が関与することを解明した。28年度はAMPAR過剰活性化の下流の細胞死の分子機構の解明に取り組んだ。イオンチャネル型のグルタミン酸受容体であるAMPARの過剰活性化によりCa2+の細胞内流入の増加が考えられる。近年の報告でCa2+依存性のタンパク分解酵素のカルパインが核の不安定性への寄与が示唆されている。cKOマウスの運動神経細胞の電子顕微鏡像での核形態の異常や核膜孔複合体の消失が認められたことから、カルパイン活性の評価を行った。その結果、cKOマウスでは有意にカルパイン活性が亢進していた。カルパイン阻害剤を投与した結果、cKOでの核膜孔複合体異常や運動障害、運動神経細胞死が有意に抑制された。また、核膜孔複合体の減少はAMAPARのアンタゴニスト投与でも抑制できたことからカルパインの過剰活性化はAMPAR過剰活性化の下流に当たることが示唆された。前年度に薬剤投与の時期や処置方法を最適化できていたため、カルパイン阻害剤投与実験にもスムーズに取り組むことができた。 これまでの成果は、日本神経科学大会、東京医科歯科大学脳統合機能研究センター若手シンポジウムで発表した。特に、東京医科歯科大学脳統合機能研究センター若手シンポジウムでは研究成果が高く評価され、優秀発表賞を受賞した。現在は、上記成果をまとめた原著論文が査読中であり、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、cKOで認められた核の不安定性(核膜異常、核膜孔複合体の分解)がどのように神経細胞死に影響しうるか検証する。また、ALSでは脊髄運動神経だけでなく、皮質運動神経も変性していく。ALS患者でのGLT1発現減少は大脳皮質でも認められることから、大脳皮質でのGLT1減少は皮質運動神経にも影響を与えうることが考えられる。すでに所属研究室で所有している大脳皮質特異的GLT1欠損マウス(Cortex-KO)を用いて、 GLT1の減少によるグルタミン酸興奮毒性が皮質運動神経に与える影響についても明らかにする。 1、核-細胞質間輸送に係わる分子の局在変化を組織学的・生化学的に検討する。近年、核外輸送の阻害剤が神経細胞の保護に有用であることが報告されている。この化合物をcKOに投与し、治療効果があるかの検討を試みる。 2、皮質運動神経のグルタミン酸興奮毒性に対する脆弱性を検証する。Cortex-KOマウスの皮質運動神経の数を詳細に検討するため、脊髄から逆行性のトレーサー色素を注入し、標識される皮質神経細胞数を定量する。皮質運動神経の脱落が認められれば、サブタイプ特異的な阻害剤を用いて、皮質運動神経細胞死に寄与するグルタミン酸受容体の同定を試みる。皮質運動神経の脱落が認められない場合は、フローサイトメトリーもしくはレーザーマイクロダイセクションで皮質運動神経と脊髄運動神経をそれぞれ回収し、グルタミン酸受容体やGABA受容体の発現量に違いがあるかqPCR法により検討する。 本年度は、前年度から査読中の原著論文の改稿も行う。これらの研究成果を日本神経科学大会、日本分子生物学大会、北米神経科学大会で発表する。
|
Research Products
(2 results)