2015 Fiscal Year Annual Research Report
国際難民保護レジームの「複合化」過程:紛争難民・国内避難民・移民を事例として
Project/Area Number |
15J04818
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
赤星 聖 名古屋大学, 法学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 国際レジーム / 複合的なガバナンス / 国際機構間関係 / 国内避難民 / 国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR) / 国際連合人道問題調整事務所(OCHA) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際難民保護レジームを事例として、国際レジームの複合化過程を明らかにすることを目的とする。具体的には、(1)国際難民保護レジームは関連アクターをどのように拘束するのか、(2)レジームによる拘束のもとで、関連アクターはどのように新たな問題に対処し、またアクター間で相互作用し合うのか、(3)その結果、国際難民保護レジームはどのような複合化プロセスを辿るのか、それぞれの要因・メカニズムを解明する。
国際難民保護レジームの複合化過程を観察するために、具体的には(A)アジアやアフリカなどにおける紛争難民の保護、(B)国内避難民(IDP)の保護、(C)移民の中でも移動の動機が人権侵害・貧困・環境汚染など複合的な人々(混在移民)の保護という3つの争点領域を対象として、それぞれの過程追跡を行ったうえで、事例間比較を行い、限定的な一般化モデルを提示する。
本年度(初年度)は、上述の目的を達成するために、(I)国際レジームの複合化過程に関する暫定的な仮説の提示、(II-B)IDP保護レジームの形成過程の解明、(II-A, C)紛争難民保護および混在移民保護両レジームの形成過程に関する予備調査(II-A, Cは平成28年度も継続予定)を行った。(I)については、国際レジームの「複合化」に着目して、国際関係論分野における関連する学術論文を理論的に整理した。(II-A)は、報告者のこれまでの研究を博士論文としてまとめ、学術書として公刊の準備を進めている。(II-A, C)は、二次文献の収集、整理、および国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)公文書館や米国国立公文書館などでの予備調査を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、研究の進展状況であるが、国際レジームの複合化過程に関する暫定的な仮説を提示し、IDP保護という具体的な事例を用いた仮説検証まで終了している。また、本年度から分析を本格化させる紛争難民保護、および混在移民保護両レジームの形成過程についても、二次資料の収集を進めた一方で、2016年2月下旬から3月上旬にかけて2週間程度、UNHCR公文書館や米国国立公文書館などでの予備調査を行った。現在、本年度に予定している大規模かつ体系的なアーカイブ調査・聞き取り調査に向けて、これまでに収集した資料を読み進め、分析し、必要な資料を吟味している最中である。
本年度に解明したのは以下の2点である。(1)国際レジームの複合化を分析するにあたって、組織論を援用した国際機構間関係という新たな分析枠組みを提示した。国際機構間関係は、組織の自律性を維持しようとして、他の組織からの統制に抵抗する独立極と、他の組織を統制しようとする統合極という、二つの極の間のどこかでその形態が決定される。(2)IDP保護レジームの形成には、国連諸機関がその制度設計に大きな影響を与え、上述の国際機構間関係の想定通り、統合と独立をめぐって国連諸機関が影響力を行使し合う状況が看取された。
第二に、研究の公表状況であるが、本年度はIDP保護レジームの形成過程の総括・とりまとめに時間を割いたため、雑誌論文などへの投稿はあまりできなかった。来年度は、博士論文を基にした単著執筆を進めると同時に、国内外の査読付雑誌にも積極的に投稿していく予定である。なお、国際難民保護レジームの「複合化」の一つの発端である、IDP保護の初期事例を分析したペーパーを、2016年3月にInternational Studies Association 年次大会にて報告し、有益なコメントを頂くことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度(第2年度)は、紛争難民保護、混在移民保護の両レジームに加えて、自然災害被災者保護レジームを事例に追加し、それぞれの形成過程を解明する。事例を付け加えた理由は、IDP保護には、紛争IDPだけでなく、自然災害の被災者も含まれ、後者への関心が高まりつつあるためである。自然災害を理由として避難する人々の保護は、迫害を移動の理由とした国際難民保護レジームからの乖離が見られ、複合化過程を分析する上で興味深い。
第一に、二次資料を読み進めると同時に、2016年2月から3月にかけて収集した資料の分析を行い、米国国立公文書館(ワシントンDCおよびカレッジパーク)にて収集すべき資料のあたりをつける。同時に、複合化した国際難民保護レジームの現状を解明するための聞き取り調査(ブルッキングス研究所など)の対象者および質問事項のリストを作成する。 第二に、実際に資料収集を遂行する。それにあたっては、ジョージタウン大学国際移民研究所(ワシントンDC)に客員研究員として受入可能かどうかの可能性を探っている。それが実現すれば、米国国立公文書館での大規模かつ体系的な資料収集、および聞き取り調査を行いつつ、国際的に活躍する研究者との相互交流によって、自らの研究を国際的に発信するためのブラッシュアップを行っていきたい。既に同研究所との連絡を取り、好意的な返事をいただいているものの、研究所自体の受入可能人数の問題も存在する。もし実現しなかった場合には、ジュネーブでの長期滞在の可能性を探ることとする。 第三に、国内外の査読誌に論文投稿を行うと同時に、博士論文を基にした単著公刊の準備を進め、本年度以上に積極的な研究公表を行うよう努力する。査読誌の例としては、『国際政治』やJournal of Refugee Studies、International Journal of Refugee Lawなどが挙げられる。
|
Research Products
(4 results)