2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J04843
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野村 肇宏 東京大学, 物性研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 強磁場 / 固体酸素 / 相図 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、固体酸素の磁場-温度相図を解明することを第一の目的とした。一巻きコイル法によって100 T以上の超強磁場発生を行い、磁化測定および磁気光吸収スペクトル測定の温度依存性から、磁場誘起新規相であるθ相の出現領域を明らかにした。また、これまでに明らかになっていなかった低磁場側の相境界を決定するため、非破壊パルス磁場を用いた磁気熱量効果測定を行い、60 Tまでのα-β、β-γ相境界の磁場依存性を明らかにした。 相転移磁場のダイナミクスを考慮した、相図に関する詳細な議論から、固体酸素θ相の出現領域は90 T以上、31 K以下と決定した。また相境界に関する熱力学的議論から、θ相が低エントロピー相であることを指摘した。γ相とθ相は磁気的・光学的性質が類似しているため、両者を実験的に区別することは困難である。しかしながら、γ相は高エントロピー相に対応するため、熱力学的観点からθ相とは明確に区別されることを指摘した。低エントロピー相であることから、θ相において分子回転の自由度は凍結していることが期待されるが、これは熱力学第三法則と矛盾しない結論である。 また当初想定していなかった実験結果として、比較的高温領域(40~90 K)においても新たな相転移を示唆する結果を得た。ただし、一巻きコイル法では相転移のダイナミクスに関する問題から、相転移磁場を正確に決定することができなかった。今後、ここで観測された新たな相境界を明らかにすることは、酸素の磁場効果を統一的に理解する上で非常に重要な問題であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
固体酸素θ相の磁場-温度相図の解明は二年間を想定していたが初年度に完了した。得られた相図は熱力学的に矛盾のないものであり、θ相の存在を裏付けるものと言える。 また、当初想定していなかった新たな相境界の存在が比較的高温領域(40~90 K)で明らかになった。すなわち、液体およびプラスチック酸素においても磁場誘起相転移が存在する可能性がある。液体やガラスといった無秩序系における相転移は21世紀における重要な問題として認識されており、酸素においても観測された折には物理業界への大きなインパクトが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
酸素の強磁場物性の中で、申請者が考える最も重要な課題は、液体およびプラスチック酸素の磁場誘起相転移に関する研究である。これらの相転移が発見された折には酸素の強磁場物性に関する統一的理解への道が拓けると考えられる。これは当初予定していた研究内容よりも普遍性が高く、科学の発展にも大きく貢献するものである。 具体的には、液体およびプラスチック酸素の磁場誘起相転移の観測を行うために、パルス強磁場下超音波測定を行う。超音波測定は構造不安定性を検出する上で最高の測定手法であり、提案する相転移を研究する上で最適と考えられる。申請者は2016年度、ドイツの強磁場施設にてS. Zherlitsyn博士との共同研究を予定しており、海外に拠点を移して研究を推進する。
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Remarks |
昨年度UTokyo Researchでプレスリリースを行ったが、その中で視覚的に美しい成果をピックアップして掲載したサイトである。冊子にもなっており、東大広報で配布された。
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