2015 Fiscal Year Annual Research Report
中緯度海洋の水温変動が大規模大気循環に与え得る影響に関する研究
Project/Area Number |
15J04846
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡島 悟 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 中緯度大気海洋相互作用 / 十年規模変動 / 海面水温偏差 / 力学モード / 移動性擾乱活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
中緯度北太平洋の表層水温は,顕著な季節変化に加え,各季節において経年変動や十年規模変動を示す.この変動が持続的な大気循環異常を強制するならば,周辺地域の季節天候予報に対して科学的根拠を与え,経済・産業にとって有用な情報を事前に提供できる事になる.本研究の目的は,中緯度水温異常に対する大気循環応答に関する問題を解決し,中緯度海洋の大規模大気循環への影響について包括的な評価を行う事である. 三陸沖の海洋前線帯で観測される,冬期の十年規模の海洋前線帯の変動に伴う水温異常への大気応答を検証するために行った,大気大循環モデルによるアンサンブル数値実験では,北太平洋において統計的に有意な大規模大気循環応答が得られた.この結果をさらに詳細に解析し,応答の維持・形成メカニズムの詳細な調査を行った.維持・形成過程として考えられる,移動性擾乱活動の変調による大規模大気循環異常へのフィードバック強制及び,気候平均場からの運動エネルギー・有効位置エネルギー変換,さらに非断熱加熱(降水等)に伴う有効位置エネルギー生成をそれぞれ評価し,相対的な重要性を比較した.その結果,気候平均場からの運動エネルギー・有効位置エネルギー変換が最も重要であるという結果が得られた.これは,大気応答が気候平均場によって規定され,地理的に固定された「力学モード」としての性質を有する事を示唆する.さらに,モデルにおける大気応答および大気再解析データにおける大気循環異常のシグナルの比較から,大気応答が大気の卓越する内部変動の位置に関係している可能性が示唆された.加えて,先行研究で指摘された大気応答の季節性(2月における応答の急激な減衰)に関しては,1月と比較して背景場からのエネルギー変換の効率が低下している事も見出された.これらの結果に関しては,米国学術誌に論文を投稿準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度も中緯度北太平洋における水温異常が大規模大気循環に与えうる影響に関する調査を行うとともに,学位論文執筆へ向けた準備を着実に進めた.特に,昨年10・11月には本学の数理リーディング大学院所属学生として米国テキサス農工科大のPing Chang教授の元に滞在し,高解像度の領域大気モデル実験について手ほどきを受けた.一方,冬季の持続的な水温異常に対する大気応答についての全球大気モデル実験の結果の解析を進め,その成果を2015年6月のプラハや2016年2月のニューオーリンズでの国際会議で口頭発表した.なお,3月の2016年度日本海洋学会春季大会での発表は,若手優秀発表賞に選ばれており,近いうちに国際学術誌に成果を論文投稿できる見込みである.
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Strategy for Future Research Activity |
冬期の十年規模の海洋前線帯の変動に伴う水温異常への大気応答の詳細な解析を進めるとともに,モデルにおける気候平均場を人為的に変化させることで,異なる気候平均場によって規定される大気の卓越内部変動が中緯度水温異常に対する大気応答をどのように変化させ得るか,に関する調査を進める.具体的には,赤道太平洋域に水温異常を与えることで,北太平洋中緯度の気候平均場に相当する標準実験の平均場を変化させ,その上で感度実験を行う.この実験に関しては,北半球中緯度の気候平均場が変化する事を確認済みであり,今後北西太平洋の水温異常に関する感度実験を行う. また,2011年10月の顕著な暖水異常に伴って観測された大気循環異常および海洋の亜表層における水温異常が,海面水温異常の形成過に与える影響の調査を開始する.近年のArgoによる観測に基づく海洋の再解析データおよび,大気の再解析をモデルに与えて行った海洋大循環モデルOFESの標準実験の結果の解析を始めている. さらに,モデルの気候平均場の変化の影響を抑えて実験を行うために,領域大気モデルWRFを用いて水温異常に対する感度実験を行う.昨年度はテキサス農工科大のPing Chang教授のもとを1か月半訪れ,その際にWRFのモデルを用いて実験を行う方法について学んだ.現在WRFを申請者の研究室のサーバに移植し,実験を行う準備を進めている所である. これらの研究を進めることにより,中緯度海洋の大規模大気循環への影響について包括的な評価を目指す.
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