2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J04903
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
松平 勇二 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | ジンバブエ / 宗教人類学 / 音楽人類学 / 民族音楽学 / 憑依儀礼 / アフリカ音楽 / 音文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、バントゥ系民族の分裂と融合の性質を視点に、ショナ社会における政治、宗教、音楽の複合構造を解明することである。具体的な研究内容は次の3点にまとめられる。(1)ショナ音楽文化の研究-音楽技術と社会の分裂と融合の関係、(2)ショナ宗教思想の研究‐分裂と融合を視点としたテキスト分析、(3)憑依儀礼の研究-危機解決過程としての社会の分裂と融合。 平成27年度は、二度の現地調査(2015年9月23日~11月22日:ジンバブエ共和国、2015年12月1日~8日:アメリカ)をおこなった。ジンバブエでは平成28年度以降の長期調査に向けた調査許可の申請、現地研究機関との連携強化、予備調査を進めた。そのなかで、ジンバブエ大学応用社会科学センターとの共同研究として“African Philosophy and Technology”を立ち上げた。共同研究により本研究の円滑な進展が期待される。予備調査としては、ジンバブエ北部の憑依儀礼で霊媒師の異言に関する資料収集をおこなったほか、祭祀楽器ンビラの音調構造についての調査をおこなった。 本研究計画の批判的検討と研究成果報告を目的に、論文(書評)1本の発表、2回の学会発表、海外研究者との共同研究をおこなった。テキサス大学オースティン校でおこなわれたSociety for Ethnomusicology学術大会では、ローチェスター大学のJennifer Kyker博士、グリンネル大学のTony Perman博士と本研究計画について検討し、方法論や調査地の選定について議論を深めた。 研究成果の公開を目的に研究プロジェクトのウェブサイトを立ち上げた(http://www.geocities.jp/shonaritual/)。今後、研究の進捗状況はウェブサイトにおいて随時更新される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を構成する3研究の進捗状況は次のとおりである。 (1)ショナ音楽文化の研究-音楽技術と社会の分裂と融合の関係。口頭伝承によれば、ショナ人は武力衝突や内紛による社会の分裂や融合を繰り返してきた。このような分裂と融合の性質は、ショナ基層文化の一部をなしていると考えられる。そして、その性質は音楽技術にもみられるはずである。27年度の調査で明らかになったことは、ショナ音楽技術と霊媒師との深い関係である。ニャンドーロ地域の祭祀楽器「ンビラ」の調律は、ある霊媒師の指示によって変化(高音域化)した。現在は変化後のンビラの音調が「伝統的」すなわち正当な祭祀楽器の音調と考えられている。今後、さらなるデータを収集し、祭祀音楽の技術的側面と社会の分裂・融合との関係を明らかにしたい。 (2)ショナ宗教思想の研究-分裂と融合を視点としたテキスト分析。27年度の調査では霊媒師の異言に注目した。ジンバブエ北部ムサーナ地区でおこなわれた憑依儀礼では、3名の霊媒師が憑霊時に異言を話した。うち2名の異言はショナ語とザンビア、マラウィ系言語の混合言語であった。もう1名の異言は英語とポルトガル語の混合言語であった。この現象は彼らが歴史的に移動や他民族との融合、分裂を経験してきたことを示唆している。 (3)憑依儀礼の研究-危機解決過程としての社会の分裂と融合。憑依儀礼は村落レベルの共同体にとっての一つの危機解決過程である。問題を抱えた人々は憑依儀礼において霊媒師の助言を得ながら問題の解決方法を議論する。集団の分裂や融合はこのような危機解決の過程で発生すると考えられる。しかし、今回の調査では十分な資料を収集することはできなかった。その原因は異言分析の困難さと、儀礼中の音声録音の規制である。異言の解読はショナ語話者であっても容易ではない。次回の調査時には調査方法の見直しと調査助手の再選定をおこなう。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度には6か月以上の長期調査の開始を予定している。この長期調査において、進める研究内容は以下の三点である。 (1)ショナ音楽文化の研究-音楽技術と社会の分裂と融合の関係。音楽技術に関しては、これまでに明らかになった技術の変化と宗教との関係についての研究を深化させる。音調や演奏技術の変化に関する資料を、ジンバブエ各地の楽器奏者への聞き取りによって収集する。また、楽器作製技術と集団の分裂、融合の関係を調査する。特に楽器の軽量化、縮小化の技術に注目する。集団の分裂によって生じる移動の過程で、楽器が縮小された可能性を探る。 (2)ショナ宗教思想の研究-分裂と融合を視点としたテキスト分析。ポピュラー・ソングから民謡、口頭伝承に至るまで、ショナの歌で頻繁に現れるテーマが「行くこと」(kuenda)である。「行く」という言葉には、ある集団や地域を離れるという意味がある。このような歌あるいは口頭伝承に現れる「行くこと」の概念を視点に、ショナ社会における集団の分裂と融合の思想を研究する。 (3)憑依儀礼の研究-危機解決過程としての社会の分裂と融合。これまでの研究で浮き彫りになった課題が、憑依儀礼における資料収集の困難である。音声データの録音規制や異言の解読がその原因である。この点については、ジンバブエの伝統的知識と技術を専門とするジンバブエ大学のサドンバ博士との共同研究を進める。できるだけ多くの憑依儀礼のテキストを収集し、危機解決の過程とその結果としての集団の分裂や融合を明らかにしたい。 以上の現地調査のほか、研究結果報告としてジンバブエの音楽技術に関する論文を発表するほか、国内学会(日本アフリカ学会、日本宗教学会)と国外学会(Society for Ethonomusicology)で研究発表を行う予定である。
|
Research Products
(5 results)