2016 Fiscal Year Annual Research Report
The Political and Religious Anthropology of Shona Music and Spirit Possession
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15J04903
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
松平 勇二 国立民族学博物館, 文化資源研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ジンバブエ / 宗教人類学 / 音楽人類学 / 民族音楽学 / 憑依儀礼 / アフリカ音楽 / 音文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はショナ社会における宗教、政治、音楽の複合構造の解明である。ショナ社会における憑依儀礼は、自然災害や人間関係に起因する社会的危機を解決する方法の一つである。儀礼では音楽が演奏され、やがて霊媒師は憑依状態になる。そして人々は霊媒師に宿った霊的存在の助言を得ながら問題解決のための議論をおこなう。このような音楽、宗教、政治を結合させる論理とは何か。研究代表者はショナ人が歴史的に繰り返してきた、集団の分裂と融合に注目し、次の3研究を進めている。(1)ショナ音楽の歌詞、音楽構造、楽器にみられる集団の分裂と融合の要素。(2)社会的危機の宗教的解決法(憑依の意義)。(3)憑依儀礼をめぐる集団の分裂と融合の動態。 平成28年度は、約4か月の現地調査をおこなった。主な調査内容は憑依儀礼の音声資料収集とその分析である。この音声資料からは、憑依儀礼における音楽の役割、憑依発生の過程、霊媒師を交えた議論の過程を分析することができる。今回の現地調査によって、21回の憑依儀礼(計50時間以上)の音声データを収集することができた。現在はジンバブエ大学応用社会科学センターのサドンバ博士らの協力を得て、音声資料の文書化と分析を進めている。 上記調査に加え、祭祀楽器ンビラの歴史に関する調査もおこなった。ジンバブエにはンビラ音楽の中心地としてニャンドーロ、モンドーロ、ダンバツォーコという三地域がある。ニャンドーロ地域とダンバツォーコ地域のンビラ奏者とのインタビューから、ンビラの起源地はニャンドーロ地域であり、婚姻や武力衝突などによる人々の移動を原因にンビラが各地に拡散したということが明らかになった。 研究成果の発表は国内学会における二度の口頭発表と、音楽教材のジンバブエ音楽に関する項の執筆によっておこなった。現在、ンビラの技術的側面(楽器構造、音楽構造)と、憑依儀礼に関する2本の論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査では、憑依儀礼と祭祀楽器ンビラに関する調査をおこなった。当初6か月以上の長期調査を予定していたが、調査許可取得の遅れなどから4か月の調査となった。しかし調査の進捗は今のところ順調である。本研究では憑依儀礼における音声資料の収集が非常に重要である。憑依儀礼において音楽はいかなる効果をもつか。いかなる過程で霊媒師が憑霊状態になるか。そして、儀礼においていかにして社会的危機の解決がおこなわれるか。これらの三点の疑問を解決することが、音楽、宗教、政治の連関論理を解明することにつながる。平成28年度は主に首都ハラレを中心に21の憑依儀礼に参加し、計50時間以上の音声資料を収集した。資料の分析には、ショナの宗教思想とショナ語に関する専門知識が必要である。したがって、ジンバブエ大学のサドンバ博士(政治・宗教人類学)、同大学のビリー・カリマ氏(宗教人類学)、ビンドゥーラ大学講師のリジー・ジニェンバ氏(社会福祉人類学)の協力を得、チームでの分析を進めている。祭祀楽器であるンビラの調査に関しては、集団の分裂、融合とンビラの拡散についての調査に進展があった。注目すべき点はンビラが婚姻や武力衝突などを通じて拡散している点。そしてその起源がニャンドーロ地域であるという点である。今後はこれら2点に注目して調査を進め、ンビラと人々の移動について分析したい。 研究調査報告として国内学会での発表を二件、音楽教材のジンバブエ音楽の項で映像の撮影編集と解説の作成をおこなった。アウトリーチ活動として、「文化人類学者が語り演じるアフリカン・ポップス!(名古屋編)」を開催し、高校生を含む参加者に研究成果報告をおこなった。同イベントを主催したアフリカン・ポップス研究会では、研究者自身が現地で学び、感じた文化をパフォーマンスで表現し、イベント参加者と対話するという新しい研究発表の手法を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、現地調査、資料分析、研究発表をおこなう。現地調査は5月から8月にかけて約3か月おこなう。この調査では、首都ハラレを中心に憑依儀礼の資料収集を継続する。それとともに音声資料の文字化と分析を進める。音声資料には音声の乱れている部分や、解釈が困難な言葉が含まれている。これらの部分を他の儀礼参加者に照会して明らかにする必要がある。この分析は、これまでと同様、ジンバブエ大学との共同研究として進める。 8月以降は音声資料の分析をおこない、その結果は論文と学会発表で報告する。現在執筆中の祭祀楽器ンビラに関する2本の論文と合わせ、3本の論文を『アフリカ研究』、『宗教学研究』、『ポピュラー音楽研究』等の学会誌に投稿する。学会等における研究発表としては、日本宗教学会と日本ポピュラー音楽学会での発表を予定している。また、ジンバブエ大学のサドンバ博士とともに、共同で英文の著書を出版する計画を進めている。現在、ジンバブエ国内あるいは日本国内での出版を目指し準備を進めている。
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Research Products
(4 results)