2016 Fiscal Year Annual Research Report
近世後期摂津国住吉郡平野郷町における郷町運営と古河藩による地方支配の特質
Project/Area Number |
15J04938
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 充弘 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 在郷町 / 平野郷町 / 実録 / 寺檀関係 / 天保改革 / 飛地支配 / 畿内近国支配 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は当初の「研究実施計画」に従い、研究の目標を、(1)1年目に分析を進めた平野郷町の史料(杭全神社文書「覚帳」、辻葩家文書、等)を用いた研究成果の公表、(2)近世後期における平野郷町の領主・古河藩の動向を知り得る史料(鷹見家歴史資料、等)を併せ用いることによる視点の拡大、の2点に据えた。 (1)については、天保改革期における「取締役」の設置と職務内容についてまとめ、大阪歴史学会、および大坂諸藩研究会で報告した。また、辻葩家文書の新出史料の中から、特に新奇性が高いと思われる「実録」を抽出・翻刻し、これを『神戸大学史学年報』に掲載した。 (2)については、文化期における平野郷町の寺檀関係を、郷町の基礎構造や社会関係の変容に照らし合わせて歴史的評価を試みた論文が『LINK』に掲載された。また、近世後期の同郷町に置かれていた飛地支配のための役所である「陣屋」について、設置経緯および役職について分析した論文を『神戸大学史学年報』に投稿した。 上記の成果は、これまで経済的な視点から研究がおこなわれてきた平野郷町のような在郷町を、領主の支配、文化、寺檀関係という観点を取り入れて再評価を試みる意義を有している。とりわけ、領主の支配は本研究全体を貫く分析視角で、「研究の目的」に記載した「在郷町を政治的・社会的に位置づける」上では欠くことができない。そして、『LINK』に掲載された寺檀関係に関する論文は、これまでのところ本研究期間の中で公表したものの中では基礎分析の結果を最も反映しており、重要と考えている。 これらの他、神戸大学大学院人文学研究科地域連携センターで実施した兵庫県西脇市との連携事業における調査成果をまとめた『西脇市連携事業 調査報告書―西脇小学校をはぐくんだ西脇市の歴史文化―』がある。同市内には古河藩の飛地領が含まれており、本研究の遂行によって得られた成果も反映させた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、当初の計画に照らして一定の成果を得ることができた。特に、平野郷町の運営を考える上での基礎となる陣屋支配についての検討結果を盛り込んだ論考が、徐々にではあるが公表ないし投稿中の状態にまとまりつつあることは、今後さらなる研究成果をまとめていく上でも重要と考えている。 また、これまで検討していた平野郷町の史料(杭全神社文書、含翠堂〔土橋〕文庫、辻葩家文書、等)や、古河藩の史料(鷹見家歴史資料、等)に加え、本年度に小山市立博物館(栃木県)ではじめて史料調査を実施できたことは、基礎的分析の上でも大きな成果であった。同館では古河藩の関東領分における地方支配の動向を知り得る史料群を調査させていただいており、平野郷町で史料が不足している部分を補うことも可能であると考えている。 さらに、神戸大学大学院人文学研究科地域連携センターの事業に伴って兵庫県下(旧播磨国の古河藩領)の歴史文化に関わる調査をおこなうとともに、旧平野郷地区を中心に大阪市内の研究会等に参加させていただくようになったことで、さまざまな立場で地域の歴史文化に関わる方々と意見交換をおこなうことのできる場が増えてきた。このことは、研究の深化や史料所在調査に活かし得るという点で著しい進展があったと評価できる。 平成27年度は課題に関わる論文を投稿ないし発表できなかった点をもって進捗状況(達成度)を「(3)やや遅れている」としたが、今年度は上記の点(研究成果の公表と史料調査の進展)を踏まえて一段階引き上げ、「(2)おおむね順調に進展している」と評価したいと思う。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、本研究期間の最終年度となる。当初の「研究実施計画」では、3年次の目標を「1・2年目の成果を踏まえ、近世中後期における平野郷町の郷町運営と領主支配の関わりについて、総合的な叙述を試みる」点に据えていた。 これを達成するため、平成27年度に第54回近世史サマーセミナーで研究報告をおこなった内容に関わる論文を構想、執筆していきたいと考えている。具体的には、(1)古河藩が所領に賦課した調達金、(2)地域社会の治安維持を目的として設置された「取締役」と「寄場囲」、(3)安政期に平野郷町で展開する郷町改革、を検討課題とする。これを分析するための素材は、平成28年度の史料調査で概ね利用可能な状態にある。すなわち、平野郷町側に残されている惣会所・町会所関係の行財政記録(御用留〔「覚帳」〕、勘定帳、等)、古河藩の藩庁文書(鷹見家歴史資料に含まれる日記や藩政史料)、同藩の関東所領に残る地方史料(触留帳、等)を横断的に用いることにより研究を推進し、その上で「大坂周辺地域の在郷町を領主支配の観点からとらえ直す」という所期の目標を達成したいと思う。
|
Research Products
(6 results)