2016 Fiscal Year Annual Research Report
トコトリエノール誘導体による抗中皮腫作用機序の解析
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15J05098
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐藤 綾美 千葉大学, 大学院薬学研究院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | トコトリエノール誘導体 / 悪性中皮腫 / Dkk1 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに我々は、ビタミンEの一種であるトコトリエノールの抗がん作用を増強する目的で合成したトコトリエノールコハク酸エーテル誘導体(6-O-carboxypropyl-α-tocotrienol: T3E)が、悪性度の高いがんである中皮腫において、悪性化因子の活性を抑制したことを報告している(Sato A, et al., Biol. Pharm. Bull. 2014)。本研究では、T3Eの抗中皮腫作用機序を解析し抗がん成分としての可能性を評価するとともに、中皮腫細胞における治療標的分子の解析を目的とした。 T3Eを処理した悪性中皮腫細胞株H2452の遺伝子発現網羅的解析を行った結果、特にDkk1(dickkopf-1)遺伝子を始めとするWntシグナル経路への影響が大きかった。Wntシグナルは細胞増殖に重要な役割をもち、がん細胞における異常な活性化が報告されている。Wnt阻害機能をもつDkk1は、がん抑制遺伝子の一つとして認識されており、T3EはDkk1の発現増加を介したWntシグナルの阻害作用を有することで、抗中皮腫効果を示すことが示唆された。我々は、中皮腫細胞ではDkk1がエピジェネティックな発現抑制を受けていると推測した。本研究結果より、H2452細胞においてT3EはDNMTs、HDACs発現レベルの抑制を介したDkk1活性化によるWntシグナル抑制作用を有し、それが細胞増殖抑制作用を示す1つの機序であることが示唆された。これらの知見は、抗がん成分の標的分子としてのDkk1の重要性を示しており、また、T3Eは、これまでに報告した作用機序と合わせて、複数の作用機序を併せもつ有望な抗中皮腫成分であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では、昨年度に引き続きT3Eの抗中皮腫作用機序の解析を進め、また、T3Eが直接結合するタンパク質の同定を目指していた。これに対し、本年度の研究成果は上記に示した通り、T3EによるDkk1のエピジェネティック修飾を介した中皮腫細胞増殖抑制作用を明らかにできた。しかし、T3Eが直接結合するタンパク質の同定までには至っておらず、その評価手法の確立までにとどまった。遅れた理由として、当初の実験プロトコルにおける磁気ビーズを用いたアフィニティー精製で標的タンパク質の回収率が解析に十分な量ではなかったこと、二次元電気泳動に用いる機器の不具合があげられる。さらに、マウスへのトコトリエノールまたはT3E投与による血中レベルの比較について、予備実験として血漿中濃度を測定するための前処理、HPLC解析条件の検討に時間がかかり、本試験に取り組むのが予定より遅れた。現在、解析結果を考察中である。以上より、進捗状況をやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに我々は、in vitro研究として中皮腫細胞培養系を用いたT3Eの細胞増殖抑制作用とその作用機序の解析を進め、ある程度の知見が得られている。また、マウス血中レベルの解析結果より、トコトリエノールの誘導体化によって生体内安定性が強化されたことが示唆された。よって今後は、ヒト中皮腫細胞を同所移植したマウスに対するT3E投与による効果を評価することで、総合的にT3Eの有用性を評価する予定である。
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Research Products
(5 results)