2016 Fiscal Year Annual Research Report
局所的なイオン流動現象の可視化観察および理論的究明
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15J05181
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
矢野 絢子 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | EHD流 / イオン交換膜 / 電解質溶液 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気的外力によって流体が駆動される現象は電気流体力学(Electrohydrodynamics : EHD)流れとして知られている.しかしながら,通常,液体中の陰イオンと陽イオンはクーロン力によって互いに引き合い,それぞれの電荷を打ち消し合うように存在して電気的に中性を保つとされる.そのため,電気的外力で流れを駆動するためには,液体中に電荷の偏った場を形成することが重要となり,電気的中性の液体を駆動するためには少なくとも数10 Vの電位差が必要とされる. マイクロ・ナノスケールの流路では,流路壁面に引き寄せられたイオンによって電気二重層が形成されるため,電圧を印加すると電気浸透流(EOF)が生じる.しかしながら,これらの流れは壁面電荷に依存するため,デバイスの設計や溶液の調製には厳しい要求が課せられ,現象を利導するための熟練した技術と設備投資は応用展開のボトルネックとなる.そこで,マイクロ・ナノスケール特有の現象である整流されたイオンの流れ場を,任意のスケールへ拡張可能とする新奇技術の確立を目的とした研究計画を提案する.本研究では,陰イオン交換膜を用いた独自の機構によって低電圧の印加でもイオンの偏在を可能とし,電解質溶液中におけるEHD現象を解明することを目的とする. 実験ではNaOH水溶液で満たされたリザーバの中央を,流路を設けた陰イオン交換膜によって仕切り,膜の両端に電圧を印加する.電圧印加の際,流路内における陽イオン濃度を陰イオン濃度に比して優越させるため,陽イオンが通過可能な流路の断面積を膜の断面積に比べて100分の1以下となるよう設計した.溶液中のイオンは電気泳動と拡散によって移動するが,流路部分に集中した陽イオンがEHD流れを誘起することが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに,2.2 Vの直流電圧を印加することにより0.1~数 mm/sのEHD流れを駆動するデバイスの製作に成功している.本年度は,交流電圧を印加することでイオンを往復運動させ,周期的に液体を駆動することを試みた.さらに,印加電圧に直流成分を足し合わせることで,EHD振動流を生成する.直流成分による電場の向きを正とするとき,同じ向きに陽イオンによりEHD流れが誘起される.比較のため,直流電圧および交流電圧を印加した場合について実験を行った.印加電圧は液中に可視化観察の妨げとなる気泡が生じない程度の電圧として2.2 Vの直流電圧とし,交流電圧の最大値も同じ値に定めた.ここで,印加した交流電圧は,周波数1 Hzで電圧の振幅を1.6 Vとし,さらに直流成分の0.6 Vを足し合わせた波形とする.直流電圧の場合,観察する流路内の流速は電圧印加直後に正の向きにピークが現れ,その後徐々に減衰した.交流電圧を印加した場合は,電圧波形と同じ周期で0.18 s程度遅延したEHD振動流が正の向きに観察された.速度のピーク値は第1波では0.51 mm/s,第2波では0.53 mm/s程度であったが第3波目以降は0.04~0.14 mm/sに減衰した.さらに,印加電圧の周波数を0.1,0.25,0.5および0.75 Hzに変化させて実験を試みたところ,すべての周波数でEHD振動流が観察された.印加電圧に直流成分を加えたことによって,単純な反復運動ではなく一つの向きへ複数回の流れを駆動することに成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに観察されたEHD流れは,徐々に速度が減衰しており,定常流れの生成には至っていない.定常流れの生成手法を確立することで工学的な応用の幅が広がると考えられるため,これの実現が今後の課題である.流れが減衰する理由については2つの原因が考えられる.1つ目は駆動した流れによって膜の両端に圧力差が生じ,EHD流れを打ち消す向きに力が働くためと考えられ,2つ目はEHD流れの主な原因となるナトリウムイオンが一度流路を通って下流側に移動すると流路上流側で枯渇し,それ以上の流れを駆動できないためと考えられる.これらの原因を検証するため,確認実験を行った.まず電圧を印加する際に液面高さの時間変化を計測することで膜を介して生じる力を見積もることができると考えた.しかしながら,現在のデバイスでは,輸送される流量に対して液面の面積が広いため水頭差は確認できておらず,今後は液面の面積を小さくしたデバイスを製作して圧力の検証を続ける予定である.また,実験に使用する電解質溶液と電極をそれぞれ硫酸銅水溶液と銅板に変更し,銅の酸化還元反応によって定常なEHD流れを生成することを試みた.その結果,電圧を印加してから100 secの間は定常な流れが確認されており,ナトリウムイオンとの違いが顕著に現れた.これより,先述した電極反応を伴わないナトリウムイオンの振る舞いに対する仮説の正当性が確かめられた.今後は,流れを駆動することのできる継続時間や,流れを誘起するために必要な印加電圧や電流等の最適値を検証していく予定である.
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Research Products
(3 results)