2016 Fiscal Year Annual Research Report
ミトコンドリア内膜トランスロケータTIM23とTIM22複合体の構造生物学的解析
Project/Area Number |
15J05215
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
松本 俊介 京都産業大学, 総合生命科学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | X線結晶解析 / タンパク質分解 / ミトコンドリア / 品質管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
正常な細胞機能を維持するために,細胞内小器官(オルガネラ)にはタンパク質の品質管理機構が備わっている.本研究では,ミトコンドリア外膜のAAA-ATPアーゼファミリータンパク質Msp1がミトコンドリア膜に誤って局在した不良なタンパク質を速やかに分解・除去する仕組みの解明を目指し,以下3つの目標を設定した.まず1つ目は,出芽酵母を用いた細胞生物学・分子遺伝学的手法により,Msp1と連携して基質タンパク質の分解に関わる因子を同定し,本分解経路の解明を目指す.2つ目は,Msp1の推定機能である基質タンパク質の膜からの引き抜きをin vitro再構成系を用いて検証し,Msp1の機能を解明することを目指す.3つ目は,構造生物学的手法によりMsp1の結晶構造を決定し,Msp1による基質膜引き抜き機構の構造基盤の解明を目指す.これまでに,Msp1の基質はユビキチン・プロテアソーム系により分解され,サイトゾルのAAA-ATPアーゼ Cdc48が本分解過程に関与することが分かった.さらに,小胞体に局在するDoa10がMsp1の基質であるミスターゲット膜タンパク質のユビキチンリガーゼであることが分かった.ミトコンドリアと小胞体の2つのオルガネラが連携して,ミトコンドリアの不良なタンパク質を除去するという新しい細胞内品質管理機構の存在が明らかとなってきた.現在,in vitro再構成系の構築に向けた予備的な実験を開始し,Msp1によって基質の膜引き抜きが起こるのか検討している.Msp1の結晶構造解析については,これまでに2.8オングストローム分解能の回折データを取得し,構造精密化の段階にある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究者は,ミトコンドリア外膜へミスターゲットするタンパク質(基質)を出芽酵母のミトコンドリア外膜へ発現させ,その分解をin vivoでモニターするMsp1の機能評価系を構築した.本研究では,この系を利用して基質の分解にどのような因子が関与するのか,候補となる因子の機能欠損酵母株を用いて解析した.これまでの解析結果から,基質は26Sプロテアソームによって分解され,サイトゾルのAAA-ATPアーゼであるCdc48がこのプロセスに関わることが分かった.次に,免疫沈降実験によって,基質は,ユビキチン化されることが分かった.そこで,基質をユビキチン化する分子を特定するために,ユビキチン・プロテアソーム系に関係する遺伝子酵母欠損株ライブラリーの中から探索を行った.その結果,小胞体に局在するE3リガーゼDoa10,Ubc6およびUbc7が本分解系に関与することがわかった.各欠損酵母株では,基質の分解とユビキチン化が大きく阻害されることから,ユビキチン化が分解までの過程において必須なステップであることが明らかになった.Msp1による基質の膜からの引き抜きをモニターするin vitro再構成系を構築するために,現在予備的な実験を行っている. N末端側膜貫通配列を除去したMsp1のAAA-ATPアーゼドメインの大量発現系を作製し,発現量やタンパク質の熱安定性を指標にして結晶化に適したMsp1のスクリーニングを行った.これまでに,耐熱性酵母K. marxianus由来のMsp1が良好に発現し,よく反射する結晶が得られている.K. marxianus由来Msp1の結晶から2.8オングストローム分解能のnativeデータおよび位相決定のための3.5オングストローム分解能Se-SADデータを取得することに成功し,現在,構造精密化を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後解明すべき課題は,Msp1とCdc48という2つのAAA-ATPアーゼの役割分担とDoa10による基質のユビキチン化とMsp1およびCdc48による膜引き抜きのどちらが先に起こるステップなのかを決定することにある.そのためには,上記のMsp1による基質膜引き抜きのin vitro再構成系を構築することが重要であると考えている.現在,Doa10による基質のユビキチン化効率が低いために,Msp1による引き抜きが非常に起こりにくいことが問題となっている.そこで,Doa10およびUbc6を過剰発現した小胞体膜を用いることで,基質のユビキチン化効率が改善されるのかを検討する.酵母細胞でのDoa10やUbc6の過剰発現が難しく,ユビキチン化の効率が改善されない場合,基質のユビキチン化の効率が低い場合には,Uba1(E1),Ubc6,Cue1の可溶性ドメインそしてUbc7(E2),Doa10のRINGドメイン,(E3)そしてユビキチンを全て大腸菌組換えタンパク質として調製し,精製因子による基質のユビキチン化反応系を利用することを検討する.現在解析途中であるMsp1の結晶構造解析については,ATPアナログ(AMP-PMP,ADP・BeFx等)との共結晶化を検討し,良質な高分解能データの取得を行い,構造決定を目指す.
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Research Products
(5 results)