2016 Fiscal Year Annual Research Report
社会運動団体の連携と分断-TMIと福島における脱原発運動のミクロ・プロセス比較
Project/Area Number |
15J05286
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
村瀬 里紗 中央大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 社会運動論 / 感情文化 / 福島 / スリーマイル / 脱原発 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は前年度からの課題を引き継ぎ、社会運動における感情文化に着目し、研究を進め、その成果を学術論文と国外学会発表にて発表した。前年度の2015年度では、フレーム論と感情を融合させることにより、感情共有がどのように運動を生起させるかの説明を行った。2015年度に提示した議論は、これまで不明瞭であったフレーム論においてどのように運動団体間がフレーム認識を一致させるかについて検討することができた。しかし、大きな課題も残った。すなわち、なぜ事例として検討したスリーマイルの脱原発運動では、感情共有ができたにも関わらず、福島の脱原発運動では感情共有がなされなかったのという問いである。 この課題を受け、2016年度は新たに感情文化という視点からの説明を試みた。感情文化の視点を日米の脱原発運動の事例に応用した場合、スリーマイルの脱原発運動では感情共有がなされ、福島の脱原発運動では感情共有がなされなかった理由について、下記の仮説を導くことができる。 仮説1:個人主義的なアメリカでのスリーマイルの脱原発運動では、怒りを表現することは正当な権利と見なされた。そのため、怒りを表現することが容易であった。 仮説2:集団主義的な日本での福島の脱原発運動では、怒りを表現することは、集団内の調和を乱すため、また権威を脅かすため、避けられた。そのため、怒りを表現することが困難であった。 現時点では、上記仮説に対する完全な検証が終了している訳ではないが、日米の脱原発運動に関してすでに収集したデータが一定の支持を示している。上記の分析をもとに研究報告書を執筆した。また、日本社会学会にて、さらに英語でThe 4th International Conference of East Asian Young Scholarsにて口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在の研究の進歩状況は、「おおむね順調に進展している」と判断する。当初の計画では、文化的要素を新たに取り入れることが最大の目標であった。今年度は昨年の課題を引き継ぎ、新たに感情文化という視点を分析の中で取り組むことができたことが研究における大きな進歩であった。文化的側面を検討することによって、なぜ事例として検討したスリーマイルの脱原発運動では、感情共有ができたにも関わらず、福島の脱原発運動では感情共有がなされなかったのという問に対し、新しい解釈を提示することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の課題としては、国家社会的要素を新たに取り入れることを検討している。そのために、第三の事例であるソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)・チェルノブイリ原発事故の際に起きた地元住民による運動活動を検討する。言論の自由が保証される民主主義国家である日米と比べ、共産主義国家であるソビエト連邦は国家の秘密警察が、市民を監視するなど、市民に対する国家の締め付けはより一層厳しい。国家が市民社会に強く介入する場合、個人の感情の表出また共有はどのように行われるのか、もしくは行われないのか。日米ソ(露)でのさらなる検証は、文化の差異からだけではなく、市民社会と国家との関係性の差異がどのように感情の表出また共有に影響するか検証することを可能する。
|