2015 Fiscal Year Annual Research Report
戦時期中国人対日協力者(和平陣営)の戦後の活動と思想
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15J05347
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
関 智英 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 対日協力者 / 亡命者 / 日中関係 / 汪精衛政権 / 汪政権駐東京大使館 / 中華日報 / 善隣友誼会 / 旧軍人 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、主に5つの研究活動を行なった。【1】汪精衛政権外交官の経歴研究。東洋文庫所蔵の大使館档案を手がかりに、総勢200名に及ぶ関係者の経歴を調査した。そのうち蔡培(大使)・孫湜(参事官)・馬玉生(二等秘書)・呉ゲツ〔王+月〕(三等秘書)・江洪杰(顧問)・譚覚真(顧問)・陶亢徳(顧問)・王維藩(駐日武官)・汪向栄(駐神戸領事)・毛慶藩(駐長崎領事)については、比較的詳細な経歴を明らかにした。以上の成果は「大使館の人々―汪政権駐日使領館官員履歴」として纏め、『東洋文庫蔵汪精衛政権駐日大使館文書目録』(東洋文庫、2016年)に掲載した。【2】胡蘭成に関する史料収集。汪政権宣伝部次長などを務め、戦後は日本に亡命した胡蘭成の言論の全容を明らかにするため、香港大学図書館・中央研究院近代史研究所他で調査を行い、現地発行の新聞・雑誌を中心に史料収集を行った。【3】善隣友誼会に関する論攷執筆。戦後汪政権や満洲国から日本に亡命した関係者は総勢で100名を優に超えたが、そのほとんどは密入国で、彼等の扱いについては国会でも問題となった。これに対処するために外務省の外郭団体として組織されたのが善隣友誼会である。その研究の成果を「中国人対日協力者の戦後と日本―善隣友誼会設立を巡って」として纏めた。本稿は『中国―社会と文化』31号への掲載が内定している。【4】『中華日報』社説目録作成。汪政権の機関紙『中華日報』の社説目録を作成し、そのうち1939年7月から1941年7月までを「『中華日報』社説目録(1)」として纏め、『明大アジア史論集』20号に掲載した。【5】雑誌『遠東』の調査及び研究成果報告。1938年から44年まで日本で発行された中国語による月刊誌『遠東』の所蔵調査・記事目録を作成し、その分析結果を「《遠東》与譚覚真―戦時在日本発行的又一種中文雑誌」として、第三届抗日戦争史青年学者研討会(2016年4月16日、於南京大学)で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国人対日協力者の戦後を検討する上で欠かすことのできない、汪政権外交官に関する事績を研究整理できたこと、また中国人亡命者の戦後の活動を考える際に柱となる善隣友誼会について論考を纏めることができたのは、27年度の大きな成果であった。これにより亡命者の全体像をかなり把握することができた。また史料収集の点では、香港大学図書館で胡蘭成によるこれまで知られてこなかった文章を発見できた。とりわけ、対日協力者が日本で発行していた中国語雑誌『遠東』の発見は意想外の成果であった。またこの成果の一部を【1】や【5】で生かせたことも、次年度以降の研究に幅を持たせることに繋がると考えられる。また戦後の対日協力者の事情を知る関係者2名へのインタヴューも実施できた。この他、学術論文を5本執筆できたので、研究成果の社会への還元という点でもおおむね順調に研究を進められていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、主に次の3点から研究を進める。一点目は、これまでに収集した胡蘭成の言論を分析することである。胡蘭成の執筆した文章は中国語・日本語、また時事性の強いものから文藝論と多岐に亘る。このうちその文藝論についてはすでに中国で複数の研究が存在する。一方で胡蘭成の時事的な文章、とりわけ『中華日報』紙上のものと、戦後日本で執筆されたものについてはこれまでほとんど検討されてこなかった。このため申請者は、胡蘭成の文章を再度分析・検討している。この内容の一部は、平成28年7月に中国社会文化学会(於東京大学)にて報告の予定である。二点目は、日中戦争末期の上海で積極的に中国事情を論じ、中国人の代弁者と称された吉田東祐の議論の分析である。吉田は上海の『申報』紙上で重慶政府や汪政権に対して歯に衣着せぬ言論を展開したが、これは吉田が日本人として中国の言論統制から自由な立場にあったが故に可能なものであった。こうした吉田の言論は、占領地の中国人の立場の代弁という側面を有していた。この点の検討を通じ、占領下の中国人の意識の実態に迫ることができよう。三点目は、胡蘭成以外の関係者数名の具体的な活動を整理する。このうち、盛毓度氏については関係者のインタヴューを予定している。
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Research Products
(7 results)