2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J05368
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山本 涼平 神戸大学, 経営学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 参入と退出 / 仮想実験 / 合併 / 製品差別化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、日本の国内航空市場を対象とした消費者の需要構造の推定に注力した。この分析は、当該研究費の採択以前より、必要となるデータ収集などの準備を行なっていたため、スムーズに分析を実施できた。消費者の需要構造の推定は、航空会社の合併によって消費者が受ける影響を測るためと、競争環境を仮定した上で企業の限界費用を逆算するために重要である。構造推定に当たっては、北九州市立大学経済学部の後藤宇生教授に研究上の助言を求めた。申請した研究課題に関係する研究として、次の2点について研究成果をまとめている。研究上の貢献により、後藤教授と共著である。 (1) 航空会社の退出行動が社会厚生に与える影響 (2) Big FirmとSmall Firmの利潤・価格 特に、(1)では、航空会社がある市場から退出した場合に、市場の均衡価格や旅客シェア、達成される消費者余剰・企業利潤・社会余剰がどのような水準に推移するかを分析した。実際の退出行動を分析するのでなく、ある航空会社が退出するとした仮想的なケースをシミュレーションしたことに特色がある。企業の非対称性として、製品差別化の程度と限界費用の違いを考慮している。それぞれの非対称性をコントロールし、製品が同質である場合や限界費用が同じである場合もシミュレーションした。特筆すべき結果として、市場に存在する企業の特性によっては、企業数の少ないケースの方が、企業数が多い場合よりも大きな社会厚生を達成することが示された。(2)では、運航している便数を企業の規模と考えて、大規模な航空会社と小規模な航空会社の参入効果の違いや、参入した場合の価格・利潤の違いを分析している。 航空会社の合併は、市場に存在する企業の数の減少と、合併によって規模を大きくした企業の新規参入を伴う。この点で、(1)と(2)は、航空会社の合併の研究と大きく関わっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で記述した(1)の研究については、航空輸送に関する研究学会であるAir Transport Research Society (ATRS) 第19回大会での発表をはじめ、日本海運経済学会、日本交通学会関西部会において発表を行なった。(2)の研究については、まだ発表は実施していないが、2016年6月に開催予定のATRS第20回大会での発表申請が採択されている。しかし、どちらの研究も、学術雑誌に投稿するには至っていない。特に(1)の研究については、当該年度中の学術雑誌への投稿を計画していたが、追加で必要な分析がまだ実施できていないことや、論文の内容の磨き上げが必要であることから、投稿に至っていない。 (1)(2)の研究は、学術雑誌への投稿こそ行なえていないが、学会での発表を通して順調に投稿の準備を整えていると評価している。どちらの論文も、平成28年度中には投稿を完了するように計画している。 交付申請時点では、航空会社の費用構造に関する実証的な分析を実施する計画であった。しかし、当該年度中にはこの分析を行なわなかった。その理由として、上記(1)と(2)の分析をするに当たっては、研究目的に対する手法として、競争環境を仮定した上で需要側の構造推定に基づく限界費用の逆算をすることで十分であると判断したことと、費用関数を推定するために必要なデータが不足していたことが挙げられる。費用構造の分析に関しては、平成28年度以降の研究において、必要となるデータの収集の問題を含めてその必要性を検討したいと考えている。 以上の通り、論文投稿の準備は進んでいるが、計画していた学術雑誌への投稿と費用構造に関する分析を行なえなかったことを理由として、進捗状況の区分は「(2) おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
先述のように、(1)(2)の研究論文を海外の学術雑誌に投稿できるよう、内容の磨き上げと追加分析を実施する。必要な追加分析の一つとして、確率係数ロジット・モデルを適用した需要側の構造推定が挙げられる。このモデルは、消費者の嗜好の違いを考慮することができるので、現在の分析の幅をより拡張することができると見込まれる。 次に、平成28年度から平成29年度にかけては、前述の(1)(2)で得られた知見を活かし、航空会社の合併そのものの分析に取り組む。下記の(3)(4)に分類して分析することを計画している。 (3) 実際に行なわれた航空会社の合併の実証的評価 (4) 仮想的な航空会社の合併のシミュレーション (3)では、近年に行なわれた航空会社の合併を対象にして、その合併が社会厚生に与えた影響を実証的に評価する。合併の影響は時間に従うものと考えられるため、時間追跡的に効果を捕捉できるような分析手法を用いる。短期間に複数の合併が行なわれた場合にも注目することと、都市間市場を対象とした分析を実施したいと考えている。低費用航空会社(Low Cost Carriers; LCC)は主要な空港に近接する、同じ都市圏内の空港に就航することが多い。同じ都市間市場に存在する強力なライバルを考慮することは重要であると考えている。 (4)は、(1)(2)の研究と同様に、仮想的なシナリオをシミュレーションによって研究する。消費者にとって同質的な航空会社が合併するケース、互いに差別化された航空会社が合併するケース、大規模な航空会社と小規模な航空会社が合併するケースなどを想定し、それらの合併が行なわれた場合に消費者はどのような経済的影響を受けるのかを分析するように計画している。この研究によって、航空市場に必要な規制政策の検討に資する学術的提言を行なうことを目的とする。
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Research Products
(5 results)