2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J05541
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 大貴 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 間接互恵性 / 協力行動 / 意図のシグナル / マインドリーディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の大きな目的は、ヒト特有の利他行動、すなわち見返りが期待できない他人に対する協力行動の機能及びメカニズムを、評判を介した互恵性(間接互恵性)の観点から明らかにすることにあった。 本年度は、間接互恵性システム成り立たせる戦略として申請者が提案した「意図シグナル戦略」の適応面における妥当性を、理論的側面から検討した。具体的には、(a)この戦略が使われている集団は進化的に安定であるか、そして(b)この戦略は他の戦略に比べて集団の効用を増大させるか、という2点の検証を行った。 (a)については、総合研究大学院大学の大槻久先生と共同で、意図シグナル戦略がフリーライダーや無条件協力戦略といった他の競合戦略を使用する個体に侵入されない条件を数理解析により検討した。本結果は昨年度行った実験結果と合わせて論文化し、2016年3月にイギリスの王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)に投稿、現在審査中である。 (b)については、従来間接互恵性を安定して成り立たせると考えられてきた「Standing戦略」と申請者の提案した「意図シグナル戦略」のどちらがより集団の効用を増大させるかをシミュレーションによって検討した。本結果は2016年6月にバンクーバーで行われる人間行動進化学会(Human Behavior & Evolution Society)の国際年次大会にてポスター発表を行う予定である(アブストラクト査読済)。 以上の成果は、ヒト特有の大規模な協力行動の進化に、協力行動それ自体だけでなく、その行動に込められた意図の伝達とその受信が大きな役割を担っていたことを示している点で従来の間接互恵性研究と異なっており、また協力行動の機能・メカニズムの解明に大きな発展をもたらした、深い意義のあるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までは、申請者の提案した「意図シグナル戦略」の妥当性を、経験的側面から検討してきた。実験室実験の結果から、ヒトは意図のシグナルを自発的に用い、またシグナルの内容を適切に受け取る傾向が見いだされた。しかし、同戦略の理論的妥当性、すなわちヒトが実際に戦略を使うか否かではなく、理論的に戦略が進化可能なものなのか否かはまだ検討されていなかった。 本年度はこの点を数理解析及びシミュレーションによって検証し、現実的な条件下で「意図シグナル戦略」がフリーライダーや無条件協力戦略に対し進化的に安定であること、また従来間接互恵性を成り立たせると考えられてきた「Standing戦略」よりも「意図シグナル戦略」の方が集団の効用をより増大させることを明らかにした。したがって、「意図シグナル」戦略は経験的側面からだけでなく、理論的側面からもその妥当性が認められた。本戦略の妥当性がこの二面から確認できたことは、本年度の研究が順調に進められたことの傍証である。 また上記の研究結果は論文化し、2016年3月にイギリスの王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)に投稿、現在審査中である。この雑誌は、進化心理学関連の論文が掲載される雑誌の中ではもっともインパクトファクターの高い雑誌のひとつである。さらに、申請者は本研究結果を2015年10月に開催された日本グループ・ダイナミックス学会の年次大会にて発表し、優秀学会発表賞(English Session部門)を受賞した。インパクトファクターの高い雑誌に論文を投稿する段階に到達したこと、社会心理学の大会において実際に研究結果の優秀性が認められたことは、今年度に期待通りの研究成果を上げたことを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の研究成果を受けて、今後は「意図シグナル戦略」の理論的・経験的妥当性をより発展的に検証していく。 まず理論的側面について、「意図シグナル戦略」の進化的安定性の検証は、フリーライダー及び無条件協力戦略との比較でしか行われていない。従来、間接互恵性を安定して成立させると考えられてきた「Standing戦略」や、他の競合戦略(例: leading eight)と比較した際に同戦略がどのような条件で安定となるのかを、シミュレーションによって検討する。 次に経験的側面について、同戦略が他戦略に比べ集団の効用を増大させることはシミュレーションによっては検証されたが、実験室実験においてはいまだ確かめられていない。これまで申請者が行ってきた実験は集団での協力状況を模したゲームの形式をとっていたが、実験の都合上実験参加者間での実際のやりとりは行われていなかった。そこで今後は実際のやりとりを用いたゲーム実験を行い、同戦略によって集団の効用がどの程度得られるかを検証する。ゲームのプログラミングはVisual Basicにて行い、実験参加者は100人程度を予定している。 またその実験の際、参加者のパーソナリティ、及び恥感情や罪悪感といった感情の特性をあらかじめ質問紙によって調査する。質問紙の結果と実験結果を照合することで、意図の伝達を起こすメカニズムを検討し、ヒト特有の利他行動について、適応面からの妥当性だけでなく、実際に利他行動を引き起こす仕組みについて明らかにしていく。
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Research Products
(5 results)