2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J05562
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
小林 理恵 奈良女子大学, 人間文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
Keywords | 喪葬 / 穢れ / 服喪 / 墓参 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、本研究の成果の一部を2本の論考として、学会誌及び大学の紀要に発表した(いずれも査読あり)。「請暇不参解にみる奈良時代の服喪」(『続日本紀研究』第411号、続日本紀研究会、2014年8月、※奥付の記載は2014年8月であるが、実際の刊行は2016年1月)では、正倉院に残る写経生の休暇申請書である「請暇不参解」を材料に、奈良期の服喪慣習について、平安期における服喪慣習との連続性・非連続性を視野に入れた考察を行った。この論考では「解」自体の文書的性格と、写経所における休暇制度についての検討を踏まえ、従来ほとんど実態が不明であった奈良期の服喪慣習の一端と、それと追善供養、穢れの観念との関係を明らかにしたものである。 「平安期の墓参に関する一考察」(『奈良女子大学人間文化研究科年報』第31号、奈良女子大学大学院人間文化研究科、2016年3月)では、10世紀において見られた墓参の慣習が11世紀に途絶することを指摘し、先行研究における墓参慣習の成立に関する理解に対して問題提起を行った。加えて、墓参慣習が途絶する背景を考察する過程で、墓所と穢れの観念との関連、及び寺院の位置付けなどについて論じ、12世紀以降の展開についても一定の展望を得た。 また以上の成果とこれまでの研究をまとめたものを、「穢れの観念よりみた日本古代の喪葬」と題した博士学位論文として、2016年1月に大学に提出し、学位の取得が認められた。学位論文では、穢れの観念の持つ遺体忌避の側面が喪葬に与えた影響を疑問視すると共に、これまで別個の制度と考えられてきた服喪と穢れとは、実態においては密接に影響し合い、結果服喪という生活規制をより強く動機づけたとした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本古代の服喪と墓参の慣習、及びそれらと穢れの観念との関連性について、計2本の論考を、いずれも査読付の学会誌と大学の紀要に発表した他、博士学位論文において、日本古代の喪葬全体における穢れの観念の位置付けについても考察を加え、学位取得が認められた。以上のことから研究全体の考察を進める上で、一定の展望は得ることが出来ていると判断されるが、先行研究の批判に終始した部分も多く、自説の深化が十分に行われているとは言い難い。 その理由としては、特に現地調査、収集した史料の整理について計画段階からの遅れが挙げられる。墓参慣習や墓との関わりを考える上では、墓所の位置関係を踏まえた議論が必要になってくるが、平安京周辺や畿内の葬地に関する調査が、地形図などを使用したものに留まり、現地調査があまり行われていない。服喪慣習についても、広く院政期までを視野に入れた史料収集を行ったが、整理と検討が徹底されていないため、検討材料としての役割を十分に果たすには至っていない。 また博士学位論文では、喪葬と穢れの観念の関係性について考察を加えたが、穢れの観念を『延喜式』触穢規定による行動規制の意識、と論文中で定義したことは、穢れの観念の定義として狭すぎるのではないかという指摘を口頭試問において受けた。これは定義を確定するにあたり、穢れの観念自体の検討、特に民俗学における事例や中世以降の展開を踏まえたそれが不十分であったことを示していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、現在までの進捗状況における問題点に鑑み、墓参慣習の成立と墓との関わりをより多面的に考えるため、平安京周辺や畿内を始めとして、葬地や墓地についての現地調査を行い、これまでの考察の深化を図る。また日本古代の墓を考える上で、天皇などの墓である山陵の存在は看過出来ないと思われるため、今後の検討対象に含める。また服喪慣習についても、収集した史料の整理に努める。これまでの検討は特に官人・貴族層の親族に対する服喪を中心とするものであったが、日本古代における服喪慣習の全体像を把握するためには、それ以外の服喪に該当する事例に関しても考察する必要がある。例えば親族や高位高官の死亡時に天皇が数日間、聴政を停止する廃朝に関しては、収集した史料に含まれるところであり、また服喪のみならず、朝廷から貴族層に対しての哀悼表明の在り方や、天皇と政務との関係を考える上で重要な論点たり得ると考えられるため、特に重点的に検討を加える。 研究の全体的な見通しとしては、現時点では先行研究に対する批判に留まる部分が大きい。従来考えられてきたような、穢れの観念の影響を喪葬において想定することが妥当でないとするならば、当該期の喪葬の特徴は何によって説明されるべきであるのか、今後自説を体系化していく、博士学位論文を自ら再検討する作業が必要である。そのために、前述の課題に取り組むことに加え、穢れの観念自体の定義づけを、先行研究や関係資料の検討を通して再度考察する。
|
Research Products
(2 results)