2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J05582
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 愛 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 残存未分化細胞の性質特定 / 静止状態におけるES細胞の多能性制御因子の同定 |
Outline of Annual Research Achievements |
ES/iPS細胞の分化誘導後には未分化の細胞が残る。これらの細胞は移植した際の腫瘍形成の原因として懸念されており、ES/iPS細胞を用いた細胞治療の大きな障害となっている。本研究では、マウスES細胞を用いて神経分化を誘導し、未分化で残存する細胞と、マウスES細胞の性質の比較を行い、残存未分化細胞に特有の性質を見出すことにより、未分化細胞が残存するメカニズムを理解することを目的とした。 一昨年度までの解析で、「残存未分化細胞」は、ES細胞と同様に多能性・自己複製能を保持していた。一方、無血清培地を用いる神経誘導下では、残存未分化細胞は多能性を維持したまま増殖を停止した、「静止状態」へ移行していた。この結果を受け、昨年度は、「静止状態」において、多能性維持や増殖停止に関わる制御因子の同定を試みた。 「静止状態」を規定する遺伝子を探索するため、DNAマイクロアレイ解析を行ったところ、複数の転写因子が、残存未分化細胞で亢進していることが分かった。そのうち、転写因子FoxO3は、造血幹細胞や神経幹細胞などの組織幹細胞において、静止状態の維持に重要な役割を果たすことが知られる。実際、造血幹細胞や神経幹細胞でFoxO3をノックダウンすると静止状態を維持できず、幹細胞は枯渇する。FoxO3は、多様な遺伝子の発現を制御し、増殖停止に関わるCDKインヒビターp21(CDKN1A)や、多能性維持に関わるOct4も標的とする。そこで私は、FoxO3がOct4やp21の発現制御を介し、残存未分化細胞の静止状態維持に機能している可能性を考えた。 この可能性を検証するため、shRNAを用いて残存未分化細胞でFoxO3の発現を抑制したところ、FoxO3の発現とともに、Oct4の発現も共に損なわれた。従って、残存未分化細胞では、FoxO3がOct4の上流に位置し、その発現を制御していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、「ES細胞の神経誘導時に残る未分化細胞」について、多能性維持の分子機構に関する解析を進めた。 「残存未分化細胞」が分化誘導下にも関わらず、多能性を維持する機構として、本研究では、転写因子FoxO3に着目した。DNAマイクロアレイ解析で、FoxO3の発現はES細胞に比べ、残存未分化細胞で顕著に亢進していた。そこで、当初の予定通りFoxO3のノックダウンアッセイを行い、FoxO3がOct4の発現制御を介して、多能性維持に寄与していることを明らかとした。 さらに、遺伝子発現解析から、残存未分化細胞では、ES細胞に比べ、解糖系や脂肪酸代謝をはじめ、細胞代謝に関連する遺伝子の発現が有意に変化していることが分かった。実際に代謝状態が変化しているか検証するため、酸化的リン酸化と解糖系の指標である、酸素消費速度(OCR)と細胞外酸性化速度(ECAR)を測定したところ、残存未分化細胞では、ES細胞に比べOCRとECARが共に低下しており、細胞内のエネルギー代謝が低下した状態にあると考えられた。以上の結果から、残存未分化細胞は細胞周期が停止し、エネルギー代謝も著しく低下した「静止状態」へと移行していることが示唆された。 上記の理由より、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの解析では、残存未分化細胞で多能性を維持する因子としてFoxO3を同定したが、細胞増殖抑制を担う制御因子については明らかになっていない。そこで、本年度は、残存未分化細胞の増殖停止を担う因子の同定とその発現制御機構を明らかにする。 上記のように、FoxO3は細胞周期停止に関わるp21(Cdkn2)も標的とするが、FoxO3の発現を抑制してもp21の発現に影響は認められなかった。したがって、細胞周期停止にはFoxO3以外の因子も関与していると考えられる。近年、ES細胞でMycの発現を低下させると、ES細胞が静止状態のような性質を示すことが報告された。マイクロアレイによる解析で、「残存未分化細胞」では、Mycの発現がES細胞に比べて大きく低下していた。また、FoxO3はMycの発現を抑制することが知られる。このことは、Mycの抑制は残存未分化細胞の増殖停止と関わっている可能性を強く示唆する。本年度は、Mycを中心として、増殖停止のメカニズムの解析を進める。 また、残存未分化細胞でFoxO3の発現が誘導されるメカニズムを明らかにすることは、残存未分化細胞を特異的に除く方法を確立する上で重要である。本年度は、FoxO3の上流についても解析を進める。FoxO3の上流としてはAMPKが良く知られる。残存未分化細胞でAMPKが活性化しているかについては、明らかになっていないが、ES細胞の神経誘導時にAMPKを活性化させると、細胞増殖・分化が顕著に妨げられ、「静止状態」様の性質を示した。このことから、FoxO3の上流として、AMPKを有力な候補とし、AMPKの活性測定、及び、発現抑制を行うことにより、FoxO3の発現・活性の制御機構にアプローチする。
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