2015 Fiscal Year Annual Research Report
有機複合材料の自己組織化構造の分子レベル観察に基づく機能創成
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15J05607
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
長谷川 友里 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 有機半導体薄膜 / 自己組織化 / 表面科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、有機半導体分子とドーパント原子や分子による複合材料の自己組織化構造と電子状態との相関を明らかにすることで、次世代デバイス創成に向けた有機複合材料設計の指針を得ることを目的とする。有機複合材料の電子状態制御には、無機半導体と同様、薄膜の構造制御が鍵となる。しかし、有機薄膜は構造が複雑で不均一であるため、その構造と電子状態の相関は十分には理解されていない。そこで本研究では、表面科学の手法を用いて構造のよく定義された有機分子膜を作製し、そこに異種分子および原子を混合することで、薄膜形状と電子状態の高精度な制御を実現する。初年度には、出発材料となる分子膜の作製に取り組んだ。 第一段階として結晶性の良好な単分子膜を作製した。ここでは分子間力の強いDNTTやPiceneなどの有機半導体分子を対象とし、基板には不活性なAu(111)基板表面を利用した。両分子ともに供給量変化によって構造転移が起こり、単結晶様の分子配列が形成されることが見出された。光電子分光法および理論計算からは、作製した単分子膜の電子状態は単結晶のものに近いことが示された。ここでは、基板からの影響を低減させたことで分子間相互作用が支配的となり、分子本来の自己組織構造である単結晶に近い構造が形成されたものと考えられる。これに関する原著論文を現在投稿中である。 次に、単結晶よりも特性の優れた薄膜を実現するため、単結晶とは異なる構造と電子状態を有する薄膜を作製した。ここではDNTT分子を対象とし、分子の自己組織化構造を変調するため異方性の強く分子-基板間相互作用の強いAg(110)表面を利用した。その結果、単結晶とは異なる分子配列が形成され、さらに、結晶性の良好な層状成長が誘起されることを見出した。これにより基板のテンプレート効果を利用した分子配列制御の可能性が示された。これに関しては現在、論文の準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、有機複合薄膜の構造と電子状態の相関の理解を目指しており、研究は、よく定義された試料を作製するところから始める必要があった。複合薄膜の作製には、単一材料からなる出発材料にドーパントを混合する手法を用いることとした。この方法では、出発材料となる薄膜の作製およびその構造と電子状態の理解が重要である。本年度は、この出発材料となる膜に関する基礎研究を十分に進めることができ、次年度における複合材料研究の基盤となる知見が得られた。 はじめに、結晶性の良好な分子群の中から構造の比較的単純なDNTTやPicenをモデル分子として選択し、不活性な基板表面に単分子膜を作製した。STMを用いた分子レベルの構造計測により、単分子膜は既存の有機半導体単結晶に近い構造を有することがわかった。光電子分光法とDFT計算からは、作製した単分子膜は、単結晶に近い電子状態であることがわかった。ここでは、フロンティア軌道の計測に特化した、分子科学研究所UVSORのBL2Bを利用することで、電子状態の詳細な計測を達成した。理論計算においては、STM計測から得られた構造モデルを用いることができたため、単結晶の電子状態との比較ができた。ただし、バンド分散等、電子状態の詳細な理解についてはやや遅れている。これは、用いた単分子膜の複数の回転ドメインに由来した複雑な波数空間の解析が困難なためである。 以上のように、分子本来の自己組織化構造を有する膜のみならず、分子配列を大きく変調させた膜の作製にも成功した。ここでは、分子間相互作用からなる自己組織化構造を変調するため、分子-基板間相互作用を積極的に利用することで、単結晶とは異なる結晶性の良好な多層膜を作製した。ここでは、ドメイン構造も十分に制御されており、今後、バンド構造を含めた詳細な電子構造計測が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、有機複合薄膜の電子状態制御のため、有機半導体分子とドーパント材料との自己組織化構造と、その電子状態との相関を探る。しかし一般に有機材料の構造は不均一であるため、本研究では表面科学の手法を用いて、構造のよく定義された系を構築する。 初年度には、結晶性の良好なDNTTやPiceneなどの分子を利用して、分子本来の自己組織化構造を有する単分子膜を作製した。さらに分子基板相互作用を積極的に利用することでDNTT薄膜の構造制御を達成した。同時に層状成長が誘起されることを見出したがその機構解明には至らなかった。そこで本年度の初めに、層状成長の機構を解明する。分子層の成長様式は下地の格子形状に大きく依存すると考えられる。そこで、異方性の異なる基板表面を利用して単層の単位格子を制御し、層状成長の有無を調べる。 本年度は、複合薄膜の作製とその構造および電子状態の計測に注力する。複合膜は、初年度に作製した構造のよく定義された単層および多層膜を出発材料とし、そこに異種分子および原子を挿入する手法を用いて作製する。ドーパントには、有機半導体の電子物性を大きく変調するアルカリ原子や、電子アクセプター性の分子を用いる。作製した薄膜の構造制御には、基板のテンプレート効果を利用する。 両課題において、分子レベルの構造とよりマクロな構造の計測には、走査トンネル顕微鏡および原子間力顕微鏡を用いる。装置は所属研究機関に既存のものを利用する。電子状態は、光電子分光法を用いて計測する。このとき、価電子帯の計測に特化したPF-BL3BおよびUVSOR-BL2Bや、内殻軌道の計測に適したSpring8-BL23SUを利用する。いずれにおいても計測に熟達した研究員指導のもと実験を進める。報告者は、初年度には当初の計画をほぼ達成している。本年度の研究についても現時点で研究は進んでおり、計画を遂行できる見込みは高い。
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Research Products
(9 results)