2015 Fiscal Year Annual Research Report
ナノ物質の妊娠期曝露が引き起こす母体炎症応答と胎児への間接影響の評価
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15J05718
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
小野田 淳人 東京理科大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / カーボンブラック / 胎児期曝露 / 中枢神経系 / 血管 / アストロサイト / GFAP / AQP4 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ナノ粒子の胎児期曝露による産児中枢神経系への影響のメカニズム解明に向け、ナノ粒子の曝露による母体から胎児への間接影響の評価を目的として行った。1)母体からの間接影響を評価するため、その定量的評価指標となる、ナノ粒子曝露量依存的に変化する生体分子を探索した。その結果、産児脳血管周辺のアストロサイトGFAP及びAQP4が曝露量依存的に増加することが明らかになった。また、脳血管周辺の組織学的変化は特定の脳領域においてではなく、脳全域にびまん性に引き起こされることも明らかにした。脳血管周辺のGFAPとAQP4はナノ粒子の胎児期曝露による発達毒性のメカニズムの理解において重要な生体分子であると考えられる。2)ナノ粒子の胎児期曝露によって産児に影響が及ぶメカニズムとして、母体での酸化ストレス及び炎症の誘発による胎児への間接影響が仮説の1つとして存在する。そこで、ナノ粒子の胎児期曝露に対する抗酸化剤の効果を1)で得られた指標を用いて評価した。その結果、産児中枢神経系における組織学的変化及びGFAPやAQP4の発現亢進は抗酸化剤によって抑制されないことが示され、曝露直後の酸化ストレスに依存しない細胞遊走や増殖の機序を介することが示唆された。本結果は抗酸化剤の長期的な効果の検証、ナノ粒子による産児への直接的な影響を視野に入れた解析の必要性を示している。3)ナノ粒子の曝露に対して鋭敏に応答する脳血管周辺の生体分子の変化を捉えるべく、in situ赤外顕微法を用いて解析を行った結果、GFAPの発現亢進をはじめとした組織学的変化の認められる脳血管周辺において、β-sheet構造を持つタンパク質の割合がナノ粒子の胎児期曝露によって増加した。ナノ粒子の胎児期曝露によって変性、蓄積するタンパク質の同定により、産児脳で認められる血管周辺異常のメカニズムや疾患との関連性が明らかになると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展と言える理由は、産児の脳血管周辺のアストロサイトGFAP及びAQP4が胎児期に曝露されたナノ粒子の曝露量依存的に変化することを明らかにしたことと、上記の研究で得られた指標をもとに、抗酸化剤の母体投与を行うことでナノ粒子の胎児期曝露による母体から産児への間接影響の検証を、初年度中に行うことができたためである。加えて、ナノ粒子の胎児期曝露により産児の中枢神経系に生じる影響について、すでにマイクロアレイから網羅的遺伝子発現データを取得し、アノテーション解析を行った。その結果、産児脳血管周辺に生じる影響のメカニズムとして血管新生や細胞増殖、細胞遊走に関わる遺伝子群が抽出された。現在、遺伝子の定量的な発現解析を行うことで、複雑かつ雑多な影響の機能的特徴を把握しつつある。さらに、in situ赤外顕微法を用いることで、ホモジナイズによって均一化された試料からは得られなかった生体分子の僅かな変化を捉えることに成功した。現在、in situ赤外顕微法により得られたタンパク質の構造変化とマイクロアレイ解析を組み合わせることで、メカニズム解明の鍵となる、ナノ粒子の胎児期曝露によって変性、蓄積するタンパク質の同定を試みている。また、本研究ではカーボンブラックナノ粒子を点鼻投与によって曝露したが、二酸化チタンナノ粒子の点鼻投与でも同様の結果が得られることを明らかにしており、構築する原子を異にするナノ粒子の胎児期曝露によっても産児の中枢神経系に同様の変化を引き起こす可能性を示している。さらに、海外の研究機関の協力により、空気中に飛散したナノ粒子の母体吸入曝露試験が可能となった。その結果、吸入曝露でも点鼻曝露と同じく産児脳血管周辺のGFAPの発現亢進が認められた。本研究課題の実施期間(3年間)で当初の計画を完遂するために必要なデータを、1年目に十二分に得ることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ナノ粒子の胎児期曝露による産児中枢神経系へのメカニズム解明に向けて、脳血管周辺組織を主要な研究対象とする。研究開始時は中枢神経系の組織全体を研究対象にしていたが、組織学的解析及びin situ赤外顕微法の結果から、脳血管周辺の組織、細胞あるいは生体分子が顕著に変化することが明らかになったため、産児脳血管周辺の詳細な観察がナノ粒子胎児期曝露による影響の発現機序に迫るためには重要であると考えられる。そのため、本研究課題では今後、脳血管周辺に対する影響の解析に重点を置くことが妥当であると考えた。また、ナノ粒子による母体から産児への間接影響をさらに追究するため、初年度の研究とは異なる抗酸化剤を用いた解析を進めている。初年度の実績を踏まえると、抗酸化剤の母体投与による抑制効果の有無を検証するためには1種類の抗酸化剤だけで結論付けるのは早計であり、複数種類の抗酸化剤を用いて慎重に検証した方がナノ粒子の胎児期曝露による影響評価及びそのメカニズムの解明に優れた知見を提供できると考えられる。以上の方針のもとで、研究課題の二年目は、1)妊娠期間中のナノ粒子の曝露によって脳血管周辺において変性または蓄積するタンパク質の同定と評価、2)複数種類の抗酸化剤の母体投与による抑制効果の検証を、初年度に明らかになったタンパク質の発現変動、構造変化ならびに遺伝子発現変動をもとに進めていく。加えて、海外の研究機関と共同で行っている、3)実際の曝露経路により近いナノ粒子の吸入曝露による産児脳血管周辺組織の変化の評価についても上記2つのテーマに沿って進める。最後に、本研究課題の中でナノ粒子の胎児期曝露よって産児脳血管周辺に影響が発現する鍵となる生体分子を明らかにすることで、中枢神経系全域にびまん性に引き起こされる影響発現を制御する方法ならびにナノ粒子胎児期曝露のリスクを回避する方法を本課題の中で検討する。
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Research Products
(33 results)