2015 Fiscal Year Annual Research Report
西アフリカにおける「アーティスト」の人類学:モノ、市場、制度に注目して
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15J05758
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
緒方 しらべ 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 芸術の人類学 / アフリカ美術 / アート / アーティスト / ナイジェリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的を達成するためには、「アート」を生産する側の西アフリカの「アーティスト」の側と、それを受容する側の西アフリカ内外の市場と制度の関係を、個々人の具体的な行為とモノや制度の具体的な特徴の存在に焦点をあてて考察していく必要がある。そこで初年度は、以下に列挙するように、1、インタビューと参与観察をナイジェリアとドイツで、2、文献調査をドイツと日本で、3、展示調査をナイジェリアとドイツと日本で行った。以下は調査地の概要である。 1、現地調査:ナイジェリア連邦共和国、イレ・イフェ市内、オバフェミ・アウォロウォ大学美術学部、ラゴス市内;ドイツ、バイロイト大学現代アフリカ美術センター(Iwalewahaus イワレワハウス)、アーヘン市内、アーヘン郊外、カトリック布教/支援 2、文献調査:ミスィオ附属図書室、ルドウィッヒ・フォーラム・アーヘン図書室、バイロイト大学現代アフリカ美術センター図書室、九州大学附属図書館、国立民族学博物館図書室 3、展示調査:東京都庭園美術館(「マスク展」)、九州国立博物館(「大英博物館展」)、金沢21世紀美術館(「ザ・コンテンポラリー2 誰が世界を翻訳するのか」展)、ナイジェリア大学美術学部(「Anya Fulu Ugo: Exhibition in hour of El Anatsui & Obiora Udechukwu」展)、バイロイト大学現代アフリカ美術センター(特別展「Future Africa Visions in Time」)、カトリック布教/支援機関・神学研究所ミスィオ(MISSIO)常設展、ルドウィッヒ・フォーラム・アーヘン常設展、アーヘン市内アフリカ美術専門画廊「ARTCO」) なお、研究成果の発表については本紙13に記載している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、西アフリカのナイジェリアの中規模都市イレ・イフェにおいて、「アート」を取り巻く人、モノ、制度の関係に注目することを通して、イレ・イフェの「アート」の市場や価値・基準、及び、そこに存在する力がいかに成立しているのかを明らかにすることで、既存の西洋近代の美術(アート)界とは異なる、また、それをつくりかえてゆくような「アート」の動態を探ることである。この目的を達成するために、「アート」を生産する側であるナイジェリアの地方都市の「アーティスト」の側と、それを受容する側の地方都市内の顧客、ナイジェリア大都市の美術作品バイヤー、ドイツの研究者・美術館・個人コレクターを対象に、生産、市場、制度の関係について、個々人の具体的な行為とモノや制度の具体的な特徴の存在に焦点をあてて調査・考察した。また、バイロイト大学現代アフリカ美術センター(Iwalewahaus―イワレワハウス)での研究打ち合わせによって、本研究との関連から、同センターの研究プロジェクト(African modernism in institutional art collections related to German collecting activities)への研究協力者としての参加も決まった。このように、初年度は目的に沿った計画通りの研究を行うことができており、本研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。 ところが、当初の計画以上に研究が進展していると判断できないのは、上記調査と考察に加え、理論的研究を深めてゆき、ナイジェリアやアートの事例を人類学的な議論の場へと接続することを、まだしっかりと実現できていないためである。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究はおおむね順調に進んだが、その初年度の調査によって明らかになったこと、ならびに、その考察によって新たに浮かび上がってきた疑問点や調査の必要性がある。例えば、ナイジェリアの大都市では、アートを生産する側とそれを受容する側(この場合、店主)にとっては、店主個人による作品の目利きというよりも、作品を買う客の判断(好み)と販売する作品を入手する際の効率性が重要となる。大都市ラゴスの外国人駐在員、外国人訪問者、国内富裕層が求めるこのような市場の「アート」は、欧米の美術市場に現れる作品群と一致していない。したがって、西アフリカの大都市には、国際的な美術市場とも地方都市の「アート」の市場ともやや異なる市場があることがわかってきたため、この市場についてさらに調査と考察が必要である。 また、ドイツでの調査によって、ナイジェリアのアーティストら(アートの生産の側)が指摘していた以上に、アフリカ美術の市場があることや、アフリカ美術を受容する側の存在が著しいことがわかった。そして、それぞれの機関や個人は異なる目的と価値観で作品を収集している/してきたこと、さらに、彼らの目的と価値観がナイジェリアのアーティストのそれと一致する場合としない場合があることもわかってきた。次年度以降はこれら詳細についても調査・考察していく方針である。 なお、今後は、理論的研究を深め、ナイジェリアやアートの事例を人類学的な議論の場へと接続すること、西アフリカ各地の比較可能な事例への目配り、国内外での積極的な討論への参加にも努めなくてはならない。
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Research Products
(4 results)