2015 Fiscal Year Annual Research Report
外来単生虫類相とその侵入機構解明による外来寄生虫の対策方法確立
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15J05777
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
新田 理人 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 外来生物 / 寄生虫 / 単生類 / 淡水魚 / 国外外来生物 / 国内外来生物 / 生物多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
単生虫類は扁形動物門に属し,そのほとんどの種類が魚類の鰓や体表に寄生する.外来の単生虫類が引き起こす魚病被害は,養殖漁業のみならず天然資源に対しても大規模な悪影響を与える.現在,約50種もの国外外来魚が日本に侵入しているが,単生虫類の寄生が調べられた種類はごく一部に過ぎない.すでに定着している外来単生虫類相を把握することは,今後生じると予測される新たな魚病被害・天然資源減少に対する防除・対策方法および外来寄生虫防除・侵入阻止方法の確立に欠かせないものである. 本年度は,西日本を中心とする20の県で採集された国外外来魚を検査し単生虫類相の把握に努めた.これまでに採集・寄生虫検査を行った国外外来魚類は25種に及び,本研究で目標としていた調査種数の半数を超えた.また,国内外来魚は10種に関して在来の水系および侵入をうけた水系で採集および寄生虫調査を行った.これらの魚類から約30種の外来生物と考えられる寄生虫が得られた.非常に多くの外来寄生虫が日本に侵入していることが今年度の調査により明らかとされた. 沖縄県に定着しているマダラロリカリアに寄生していた単生虫類4種は同定が終了した.すべてが国外外来単生虫であり,その内の1種が未記載種であることが判明し,現在論文を投稿中である.外来魚類の採集の際に得られた在来魚からも多くの未記載と考えられる単生虫が得られており,その中でも絶滅が危惧される魚類の単生虫に関しては情報の重要性・緊急性が高いと判断し,記載論文を投稿している.また,調査中に得られたコウライギギに関しては新たな侵入水域を発見したため,現在報文を準備中である. 得られた単生虫に関してDNA情報の蓄積を目的とした遺伝子の解析を進めている.多くの寄生虫では遺伝情報が得られておらず,これらの情報は今後の系統解析およびDNAバーコーディングに関する研究へ大きく寄与するものと期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度目標としていた、琉球列島における国外外来魚の単生虫類相調査をほぼ完了し,多くの国内外来魚類の移入元である琵琶湖・淀川水系における単生虫類相の把握することが出来た.また当初の目標を超えて,他の水域に侵入・定着していた外来魚類についても採集・寄生虫の検査を行うことが出来,結果として3年間で調査することを目標としていた外来種の数の半数以上を調査することが出来た.また、10種の国内外来魚に関して,在来の水系および侵入をうけた水系で採集を行い,寄生虫検査を行った.これらの魚類から約30種の国外外来寄生虫が得られ,非常に多くの外来寄生虫が日本に侵入していることが本年度の調査により明らかとなった. 研究成果の発表に関して,マダラロリカリアに寄生していた単生虫類4種に関して,現在論文を投稿中である.また,調査中に得られたコウライギギに関しては新たな侵入地を発見し現在報文を準備中である.これまでに行っていた研究で発見した外来寄生虫に関しても研究を進め,論文の出版と国内学会での発表を行うことが出来た.外来寄生虫として霞ヶ浦産チャネルキャットフィッシュに寄生する単生虫Ligictaluridus priceiとウシガエルに寄生するウシガエルシャコウキュウチュウに関する論文,沖縄県産国内外来魚コイに寄生していたコイユビガタムシに関する報文を発表した.国内外来魚タモロコに寄生していたユビガタムシ科単生類の未記載種2属4種に関する研究報告を日本動物分類学会にて行い,ユーラシアおよびヨーロッパで外来魚として分布を拡大しているモツゴ(日本では在来種)に寄生する単生類に関して,日本における新記録および再記載を行った. これらの予定以上の進捗状況を研究成果を鑑み,現在まで本研究は当初の計画以上に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は温帯系の国外外来魚および国内外来魚の単生虫類相・生態の解明を主な目的とし,関東地方,九州地方および東北・北海道の主要水系における単生虫類相を解明する.前年度に調査した国内外来魚の主要な移入元(琵琶湖・淀川水系)の単生虫類相に関する知見を活用できるため,効率の良い国内外来単生虫類相の調査が可能となる.外来魚類の採集は当該地域にある漁業協同組合・教育研究機関の協力を得て行い,特定外来生物をのぞき魚類は活魚で当該地域にある教育研究期間もしくは広島大学大学院生物圏科学研究科に移送,寄生虫検査に供する.本年度において,外来魚類の採集調査を完了させる予定である.平成29年度は得られた単生虫の同定作業を集中して行う. 九州は大陸の影響を強く受けた固有の在来淡水魚類相を有するが,国内外来魚も多く定着しており,貴重な在来魚への影響を把握するためにも外来単生虫類相を把握する必要がある.しかし,熊本地域においては震災の影響が懸念されるため,当地の状況を見て場合によっては調査を平成29年度以降行う.関東地方は利根川水系・多摩川水系を中心に国内外外来魚を調査する.特に霞ヶ浦や渡良瀬遊水地では多くの国内外外来魚が定着し問題となっており,現地の漁業協同組合と協力の下,採集・寄生虫調査を行う.東北地方・北海道は国外外来魚のみならず,非常に多数の国内外来魚が侵入しており,同時に外来単生虫が侵入していることが昨年度の研究により明らかとなった.より多くの外来単生虫が侵入していることが予想され,詳細な調査が望まれる. 採集した単生虫の標本は,必要な染色や透徹を行った後,実体顕微鏡や生物顕微鏡を用いて同定し,単生虫相を解明する.得られた単生虫類は必要に応じてDNA塩基配列を用いた遺伝系統解析を行う.研究の成果,未記録種・未記載種は記載の後,国際学会・国内学会で発表し国際誌に投稿する.
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Research Products
(4 results)