2015 Fiscal Year Annual Research Report
価格データを用いた仮想的な環境政策評価の計量経済分析
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15J05823
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中西 勇人 京都大学, 経済研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 環境評価 / 不動産競売 / 処置効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、非限界的な環境改善を伴う政策の評価法開発:大気汚染や水質など居住地点に関連する環境質の評価には、ヘドニック法が主に用いられる。しかし、ヘドニック法による環境評価では、非限界的な環境改善をもたらす政策の評価が、実務上困難な場合が多い。したがって、不動産競売データを用いることで、非限界的な環境変化の便益を推定できることを示し、東京23区のアパートに関して周辺の不燃建築物を増加させるとき平均的な入札者にとって、アパートの価値がどれだけ変動したのか検証した。 2、希少激甚災害リスクと経済行動に関する実証研究:発生確率が極めて小さいが被害が壊滅的な事象(希少激甚事象)を回避する便益は無視されることが多い。しかし、希少激甚リスクの無視は政策便益の過小評価につながる可能性がある。私は以前、南海トラフ巨大地震に関する被害想定の発表を用いて、希少激甚リスクに関する情報更新によって地価が変化したことを指摘していた。しかし、地理的な特徴を南海トラフ巨大地震に関する被害想定の発表の効果と混同する可能性があった。これに対し、マッチング法と差の差法を組み合わせた場合にも、情報更新によって地価が変化していることを明らかにし、家計が希少激甚リスクの変化に反応した可能性を指摘した。 3、条件付き処置効果推定におけるチューニングパラメタの選択:処置効果を推定において、処置効果の観察可能な変数に関する異質性に興味がある場合には条件付き平均処置効果の推定が行われる。このとき、関数形の仮定を緩めるためにしばしばノンパラメトリック推定が行われるが、推定の際には近似の精度に関する変数を分析者が選ぶ必要がある。本年度の研究において、傾向スコアマッチングを用いた、条件付き平均処置効果の推定に対して、近似の精度に関する変数の選択法開発を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非限界的な環境改善を伴う政策の評価法開発 不動産競売データを用いることで、非限界的な環境変化の便益を推定できることを示し、シミュレーションモーメント法を用いて、東京23区のアパートに関して周辺の不燃建築物を増加させるとき平均的な入札者にとって、アパートの価値がどれだけ変動したのか検証した。ただし、不動産に関するヘドニック法では居住者にとっての支払意思額を通して便益推定をする。これは競売においては平均的な入札者ではなく落札者にとってのアパート価値や入札額に対応する。したがって、ヘドニック法との手法的なつながりを強めるために、居住者(落札者)にとっての便益の定式化や推定も必要である。 条件付き処置効果推定におけるチューニングパラメタの選択 ノンパラメトリックな条件付き平均処置効果推定において、推定の際にはチューニングパラメタを分析者が選ぶ必要がある。私は本年度の研究において、傾向スコアマッチングを用いた、カーネル法による条件付き平均処置効果の推定に対して、理論的な平均2乗誤差を最小化する基準によるチューニングパラメタ選択法開発を試みた。平均2乗誤差を展開した表現を得て、展開された各項の収束の速さの比較し、理論的に好ましいチューニングパラメタの表現を得た。現在、各項の収束の速さの確認作業とコンピューターシミュレーションを行っている。 また、競売における価値の分布推定に関してもチューニングパラメタの選択法開発を試みたが、変数の多さと表現の複雑さから、かなりの時間を要すると判断しこの項目に関しては中断している。
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Strategy for Future Research Activity |
非限界的な環境改善を伴う政策の評価法開発 不動産競売データを用いる手法において、ヘドニック法との手法的なつながりを強めるために、居住者(落札者)にとっての便益の定式化や推定も必要である。入札者にとっての競売にかけられた財の平均価値を推定し、落札者にとっての財の価値と平均価値の差から落札者固有の評価を推定することを試みる。これをもとに競売をシミュレートすることで、現在の落札者(居住者)が、不動産の周辺環境が大規模に改善した際の入札額を求める。現状の落札額と改善後の仮想的落札額を用いて便益を評価する。 条件付き処置効果推定におけるチューニングパラメタの選択 各項の収束の速さの確認作業とコンピューターシミュレーションを行う。また、理論的に好ましいチューニングパラメタの表現は非常に複雑であり、プラグイン法による構築も困難であることから、実証研究で扱いやすいよう、理論的に好ましいチューニングパラメタと同等の値が得られる代替的な手法があるのか検証する。具体的には、ブートストラップ法により得られる平均2乗誤差を最小にするチューニングパラメタが、理論的に好ましいチューニングパラメタと近い値をとるのか検証する。
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Research Products
(3 results)