2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J05885
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
大西 由之佑 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 核合一 / 被子植物 / 卵活性化 / 受精卵 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
受精は雌雄配偶子の膜融合および、その後の雌雄配偶子核の移動と融合(核合一)をもって完了し、誕生した受精卵は発生に向けた様々な発生プログラムを開始する。しかし、被子植物におけるこの受精・初期発生過程は、厚い子房組織が障壁となり、これまでわずかな知見しか存在しなかった。 報告者は単離したイネ雌雄配偶子を人工的に融合し、受精卵を作出する手法(イネin vitro受精系)と独自に考案したその応用法(雌雄バランスを欠いた倍数性受精卵作出法)を用いることで、配偶子融合の直後に起こる核合一機構への理解を進めた。その結果、これまでに、系時的な核合一動態(Ohnishi et al.,2014, Plant Physiol)にくわえ、卵細胞側の核合一制御機構(Ohnishi et al.,2017, J Plant Res)、精細胞側の核合一促進能(Ohnishi et al., 投稿準備中)の存在を明示した。さらに、植物倍数化への寛容性(Toda et al.,2016, Plant Physiol )や、雌雄配偶子・ゲノムが胚発生に及ぼす効果(Ohnishi et al., 投稿準備中)といった植物胚発生における未知の分子機構の存在も明かにしつつある。 本年度は「精細胞側の核合一促進能」に焦点を当てた研究を推進している。被子植物において受精直後、細胞内Ca2+レベルの一過的上昇が起こることが知られている。この精細胞侵入による細胞内Ca2+レベルの上昇が「核合一促進」に関与した可能性を検討するため、解析を行った。その結果、受精後のCa2+を介した卵活性化の標的の一つに核融合が含まれる可能性が示されており、核合一の促進という新規生命現象とその分子基盤の一旦を露にしつつある(Ohnishi et al.,投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、今年度は主に、雌雄核の合一や受精卵の活性化などの配偶子融合後に進行する受精卵の初期発達機構と雌雄配偶子の細胞特性の関係性を明らかにすることを目的として解析を進めた。イネ卵細胞同士を融合させた融合卵細胞やその融合卵に精細胞を融合させた雌性過多受精卵などを作出し、それら融合細胞中における配偶子核の融合およびアクチンメッシュ移動などの速度を比較解析することにより、卵細胞の有する「核融合能」および精細胞の有する「核融合促進能」が示され、この知見は、本研究での構成的な実験発生学的アプローチにより初めて明らかにされたものである。 前年度申請者により示された、卵細胞内のアクチンメッシュの集約は受精の有無に関係なく継続的に発生している現象である。受精後のこのアクチンメッシュ集約速度の速やかな上昇が検出されており、配偶子融合直後から精細胞の核合一機構への関与の存在が想定された。融合直後には細胞内Ca2+レベルの一過的上昇が起こることが知られており、この精細胞侵入による細胞内Ca2+レベルの上昇が「核合一促進」に関与した可能性を検討するため、人為的に卵活性化を誘導する処理の検討を行った。その結果、卵細胞をCaCl2と共培養することで高い確率(48.7%)で受精卵と同等の細胞壁形成を誘導させることが可能であることが示された。その条件下で、2つの卵細胞を融合させた細胞内における卵核同士の融合速度を、円形度を基準とし観察したところ、核合一の促進化が確認された。この結果は受精後のCa2+を介した卵活性化の標的の一つに核融合が含まれる可能性を示した。 今後さらに、これら雌雄配偶子がそれぞれ有する細胞機能の分子基盤の一端を明らかにし、発生生物学、植物科学、および細胞生物学の諸生物学分野において共通して重要な知見となる分子細胞機構を見いだすことを期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
示されつつある「核融合促進能」とそのキーファクターであろう「細胞内Ca2+レベルの上昇」の関係性の明確化に取り組む。さらに、Ca2+イオンを介した卵活性化と胚発生の関連性についても追求する。 これまでに、オスが多い雄性過多受精卵は正常に分裂し、植物体への再分化が確認されている。しかし、多くの動物では2つ以上の精子侵入による中心体数の過剰供与は、その後の正常な細胞分裂を損なわせることで発生の停止をもたらす。このことは植物雄性配偶子が受精卵に対して、その後の細胞分裂に係る微小管システムの配向に影響しないことを示し、受精における雄性配偶子が司る役割に動植物間で明確な差が存在することが明示された。 同様に、構成要素として精細胞を1つ含む、雌性過多受精卵は受精卵と同様に高い発生能(>90%)を示す。一方で卵細胞および、受精卵と同等のゲノム量を有する、卵融合細胞はそのほとんどが生育を示さない。各融合細胞内における受精卵遺伝子発現プロファイルを確認したところ、雌性過多受精卵は受精卵様、卵融合卵は卵細胞様の発現パターンを示した。このことから、卵核同士の融合は受精誘導性遺伝子の発現を誘導せず、精核との融合によって初めてそれらが誘導させることが明示された。さらに、上述処理よって卵活性化を引き起こした卵細胞では、一部の遺伝子の発現パターンが受精卵様のものへと変化することが示された。これは、雌雄配偶子融合による細胞内Ca2+レベルの上昇が受精卵遺伝子の発現制御に関与する可能性を示している。これら得られた知見は、受精卵における複雑な発生プログラムへの理解へと続くだろう。
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Research Products
(5 results)