2016 Fiscal Year Annual Research Report
抗うつ作用を有するセロトニン神経回路の同定とその可塑的変化の分子機構の解明
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15J05932
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西谷 直也 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | セロトニン / うつ / 光遺伝学 / ウイルスベクター |
Outline of Annual Research Achievements |
①初年度は尾懸垂試験など、SSRIの単回投与が効果を示すうつ様行動試験を用いた検討を行った。今年度は、さらに、よりモデルとして妥当性が高いとされている。慢性社会的挫折ストレスマウスの作製を行い、薬理学的検討を行った。まず、慢性社会的挫折ストレスを与えるとうつ様の行動を示すことを確認し、セロトニン遊離薬であるフェンフルラミンを投与することで、そのうつ様行動が減弱することを見いだした。②以前使用していたレンチウイルスベクターでは、セロトニン神経終末までの十分な遺伝子発現が見られないことを確認した。そのため、より高い遺伝子発現が可能と考えられるアデノ随伴ウイルスベクターを新たに作製し、TPH2プロモーター領域の最適化を行っているところである。さらに、最近効率的な逆行性アデノ随伴ウイルスベクターが報告されたため、これを用いてセロトニン神経特異的な逆行性ウイルスベクターの作製を試みた。神経細胞に対して非特異的に遺伝子発現が可能なhSynプロモーターを用い、逆行性感染が可能であることを確認した。現在、セロトニン神経特異的な逆行性アデノ随伴ウイルスベクターを作製しているところである。また、Tph2-tTAマウスを導入し、tetO-GOIレンチウイルスベクターを投与することによるセロトニン神経特異的かつ十分な遺伝子発現を目指した。このtTA-tetOシステムの使用により、セロトニン神経特異的かつ神経終末での十分な遺伝子発現が確認できた。以降、これを用いて各種行動実験を行う予定である。③セロトニン神経終末を特異的に刺激することで、抗うつ様作用の発現が見られるか検討した。まず、Tph2-tTA::tetO-ChR2マウスの側坐核へ光ファイバーを埋め込み、光照射しながら尾懸垂試験を行った。しかし、対照群と比べ、有意な差は見られなかった。今後、他の神経核においても同様の検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以前開発したセロトニン神経特異的ウイルスベクターでは神経終末において十分な発現量が得られないことが分かった。そこで、Tph2-tTAマウスを導入し、tetOの下流で遺伝子発現が可能なレンチウイルスベクターと組み合わせ、tTA-tetOシステムを用いることで、遺伝子発現量の上昇が見られた。さらに、最近報告された効率の良い逆行性アデノ随伴ウイルスベクターを導入し、hSynプロモーター下で遺伝子を発現するウイルスベクターを作製・投与することで、マウスにおいて多数の逆行性感染細胞が見られることを確認している。今後はセロトニン神経特異的プロモーターの下流に載せ替えたウイルスベクターを作製することで、セロトニン神経特異的な逆行性ウイルスベクターが作製できることが期待される。これらを利用することにより、セロトニン神経の投射先でも十分なChR2の発現が見られ、セロトニン神経単一回路選択的な刺激が可能だと考えられる。また、現在うつ病の動物モデルにおいて、セロトニン遊離薬の投与により、うつ様行動の減弱が見られている。さらなる検討により、セロトニン神経の特異的な刺激がモデル動物でも抗うつ様作用が見られるのかが解明できると期待される。また、うつ様行動に関与する単一セロトニン神経回路の解明に関しては、現在側坐核が関与しないことを示唆するデータを得ている。今後、前頭前皮質や腹側被蓋野などにおける投射先選択的なセロトニン神経終末の刺激を行うことにより、どのセロトニン神経投射が重要であるのかが解明できると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
一つ目の課題はうつ・不安に関連する単一セロトニン神経回路を同定することである。Tph2-tTAトランスジェニックマウスとtetoの下流でチャネルロドプシンを発現するレンチウイルスベクターを組み合わせることで、投射先において十分なチャネルロドプシンの発現が確認できた。これを用いて、各セロトニン神経投射先を局所的に刺激しながら、尾懸垂試験や高架式十字迷路試験を行うことで、うつ様行動や不安様行動に関与する単一セロトニン神経回路の同定が可能であると考えられる。また、逆行性アデノ随伴ウイルスベクターによる逆行性感染も神経細胞種非特異的なものに関しては確認できており、これをセロトニン神経特異的ウイルスベクターにおいても同様に作製することで、セロトニン神経特異的な逆行性ウイルスベクターの作製が可能であると考えられる。一般的に、アデノ随伴ウイルスベクターはレンチウイルスベクターに比較して発現量が高いことから、これを利用することで、上記の方法による単一セロトニン神経回路の同定が不可能であった場合の代替策になると期待される。 もう一つの課題は、慢性社会的挫折ストレスモデルにおいてセロトニン神経特異的な刺激が抗うつ作用を示すのかということである。 これに関しては、セロトニン遊離薬が効果を示すことを確認している。今後は、人工受容体DREADDをセロトニン神経特異的に発現させ、その特異的アゴニストで刺激することが効果を示すか検討する予定である。
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Research Products
(3 results)