2015 Fiscal Year Annual Research Report
ゲノムサイズの進化の理解に向けた、DNAを保持することによる負荷の定量
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15J05986
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
明野 優也 大阪大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | プラスミドのコスト / DNAの量のコスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多量のDNAを保持することが細菌の生存競争にどれほど悪影響を与えるのかを、実験によって明らかにすることを目的としています。細菌のゲノムサイズがいかにして進化したのかを説明する仮説は、しばしば多量のDNAを保持することの生存競争への悪影響を仮定していますが、その影響が定量されたことはありません。そこで本研究では、この点を明らかにすることを大きな目的として、「DNAの量が単位塩基分増加したとき、増殖速度がどれだけ低下するか」を定量することを目指しています。 そのために、当該年度では、大腸菌(モデル細菌)とプラスミド(DNAの小分子)を用いた独自の実験系の構築し、試験的な測定を行いました。この実験系は、(1)プラスミド上の遺伝子の数は同一で、サイズ(DNAの長さ)は異なるプラスミドを作製する、および(2)プラスミドコピー数(大腸菌内のプラスミドの数)が異なる状況を生み出すこと、の2つが必要です。当該年度では、化学合成したランダムな配列のDNAをプラスミドに挿入することにより、(1)を実現しました。また、プラスミド複製開始に関わる領域に変異を導入することで、(2)を実現しました。そして、こうして得られたプラスミドのどれかひとつをもつ大腸菌を用いて、プラスミドコピー数と増殖速度の関係を測定しました。その結果、プラスミドコピー数が多いときほど増殖速度が小さくなることがわかりました。また、プラスミドのサイズが大きい場合の方が、増殖速度はより大きく低下することがわかりました。ここで、プラスミドコピー数が変化したときの増殖速度への影響は、DNAの量の変化によるものと、遺伝子の数の変化によるものであると考えます。そうすると、大腸菌のもつプラスミドが大きいほど、プラスミドの数の増加に伴い、増殖速度は比較的大きく減少すると考えられます。つまり、今回得られた結果は、DNAの量が多いほど増殖速度が低下することを示唆しています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、遺伝子数が同じでサイズが異なるプラスミドの作製を行った。このようなプラスミドを作製するためには、遺伝子を含まないような配列のDNAが必要である。そうしたDNAを得ることを目的に、20塩基程度のDNAプールを用い、DNA断片をランダムに繋げ合わせることを行った。その結果、700 bp程のランダムな配列のDNAを得ることができた。しかし、長いDNAを作製することを試みたが、目標とするサイズは3kbの DNAを得ることはできなかった。そこで、DNAの配列をデザインし、化学合成するという別の手段を採用した。この方法により、遺伝子を含まないような配列の3 kbのDNAを得ることができた。 次に、大腸菌に導入したプラスミドの数を変化させるための系を構築した。本研究で使用するpUC系のプラスミドの複製が、このプラスミド上にコードされているRNAにより阻害されることを利用し、誘導剤によりRNAの転写量を変えることで、プラスミドコピー数をコントロールすることを試みた。必要な遺伝子カセットの作製や、それの大腸菌ゲノムへの組換えは成功したが、誘導剤でのコピー数制御はうまくいかないことがわかった。そこで、プラスミドの複製起点に変異を導入するという別の手段を採用した。この方法により、大腸菌内のプラスミドコピー数が異なる状況を作り出すことができた。 続いて、上記で作製した大腸菌-プラスミドの系を用いて、プラスミドコピー数と大腸菌の増殖速度を測定した。そして、異なるプラスミドサイズにおける、プラスミドコピー数と増殖速度の関係を得ることができた。これらの結果から、プラスミドコピー数が多いときほど、宿主の大腸菌の増殖速度は低下することが確認できた。また、大きいプラスミドの方が、1コピー変化したときの増殖速度への影響が大きいことが確認できた。つまり、DNAを保持することによる負荷が増殖速度に影響を与えていることを示唆する結果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、実験系の構築に関しては、研究計画から変更があった。ただし、上記の代替策を用いて実験系の構築ができたので、問題にはなっていない。 今後は、作製したこの実験系を利用して、本研究の目的であるDNA量と大腸菌の増殖速度の関係を精査していく。その方法は、研究計画の通りに予定している。
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Research Products
(1 results)