2015 Fiscal Year Annual Research Report
琉球語首里方言のモダリティ―実行・叙述・疑問のモダリティを中心に―
Project/Area Number |
15J05997
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
崎原 正志 琉球大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 琉球語 / 沖縄語 / 首里方言 / モダリティ / 命令文 / 推量 / 肯否質問文 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、構文論的な分析に基づき、琉球語沖縄首里方言のモダリティについて、包括的かつ体系的な記述研究を行うことを目的として、27年度は以下の内容で研究を行った。 【具体的内容】既存の豊富な談話資料と、面接調査によって得た用例を用いて、実行・叙述・疑問のモダリティを中心に分析を行った。首里方言の文が表すモダリティタイプ、どのような形式を有するのか、各モダリティタイプの基本形式と意味・機能、特定の文脈や場面で表される意味・機能(場面状況的な意味あい)に着目して、1.実行のモダリティから命令・依頼文について、2.叙述のモダリティから推量を表すハジの文について、3.疑問のモダリティから肯否質問文を形作るミとナーの文の分析・記述を行った。 【研究成果】1.について、命令・依頼文の基本的な形式にはシェー形式とシヨー形式の二つがあり、前者は〈強制的な命令〉や一方的な行為の実行の〈要求〉を表す命令文で用いられ、後者は聞き手を配慮した命令文で用いられていた。2.について、ハジの文の基本的な機能は〈推量〉である。ラハジとルハジという形があるが、ラハジは直接確認できる根拠がある場合等、確信度が高い場合に用いられる傾向があった。ハジの文は他に〈反事実仮想・記憶の思い出し・予定・断定回避〉等の派生的な機能があった。3.について、ミは疑問の要素が強い典型的な質問文で用いられるが、ナーは文脈や発話状況から導き出された話し手の推論等を確認するような質問文で用いられていた。ミとナーの文については日本語文法学会第16回大会で発表した。 【意義・重要性】琉球語の研究でモダリティに着目した研究はほとんどなかったため、首里方言のモダリティ研究であること自体に意義がある。本研究は、琉球語のモダリティ研究の先がけとして位置づけることができ、本研究の完成によって琉球語研究におけるモダリティ研究のモデルが構築される意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究達成計画は次の通りであった。 1.積極的な用例の収集と用例の分類・整理。 2.面接調査による用例の収集。 3.実行・叙述・疑問のモダリティを中心に、得られた用例を分析し、論文にまとめる。 4.国内外の学会や研究会で発表する。 初年度は、上記の1234の全てを達成することができた。1.について、ほぼ計画通りに多くの用例を収集することができた。特に、実行のモダリティからは命令文や依頼文について、叙述のモダリティから推量などの機能をもつハジの文について、疑問のモダリティから肯否質問文を形作るミとナーの文について多くの用例を収集できた。2.面接調査は、単一の首里方言話者の協力を得て、5月~3月にかけて毎月2~3回実施することができた。単一の話者だが、首里方言や言語に関する知識が豊富で、首里方言に関する著書も多数出版している方のため、モダリティ研究のための好例をたくさん得ることができた。3.について、それらの用例を分類・整理し、その後、詳細に分析・記述まで行うことができた。研究実績については先述の通り、首里方言の実行・叙述・疑問のモダリティについて多くの貴重な研究成果を得ることができた。4.肯否質問文のミとナーの文については、日本語文法学会第16回大会で研究発表を行い、好評を得ることができた。海外では、文法記述の経験を生かして、琉球語の言語復興について研究発表を行うことができた。このように、初年度はこれらの1234の全てを達成することができたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の課題と推進方策については次の通りである。 1.自然談話の収録。 2.「評価文」と「疑い・確認要求の文」の分析を深める。 3.学術雑誌に論文を投稿。 4.国内外の学会で研究発表。 1.について、自然談話の録音は初年度でも行う予定だったが、複数の有能な首里方言話者を見つけることが困難だったため、未実施だった。幸い首里方言の近隣方言話者に協力を要請することができたので、本年度内に自然談話の録音を行う予定である。収録した自然談話は文字化し、学術雑誌にデータ提供という形で投稿する予定である。2.本研究は首里方言のモダリティ全体を体系的に記述することが目的であるが、全てを詳細に記述することは困難である。したがって、モダリティ全体の概略的な記述を行いつつ、琉球語に特徴的なモダリティである「評価文」と「疑い・確認要求の文」の分析については詳細に記述する。そのためには、面接調査でも集中的にこれらの文の用例の収集に努める。3.初年度でまとめた論文を、本年度では積極的に学術雑誌等に投稿する。現在、命令表現に関わるモダリティ、肯否質問文に関わるモダリティ等については分析が概ね完了しているため、『琉球の方言』等の学術雑誌に投稿する予定である。また、文法研究の傍、言語復興に関する論文についても国内外の学術雑誌に投稿し、危機言語である琉球語について、文法記述の重要性について広める。4.本年度も国内外の学会で発表を行う。既に6月に沖縄県内開催の学会で研究発表を行う予定である。モダリティ研究を生かし、海外では、琉球語の言語状況や言語復興について研究発表や講演を行う予定である。上記の1234を推進することで、首里方言のモダリティを包括的かつ体系的に記述することが可能となり、また、モダリティ研究の重要性や記述文法を生かした言語教育・言語復興について理解を深めることができ、広く一般社会に還元できる。
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Research Products
(3 results)