2016 Fiscal Year Annual Research Report
人工種苗マダイにおける行動特性の形成メカニズムと実用的訓練技術の開発
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15J06124
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
髙橋 宏司 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 魚類 / 学習 / 行動特性 / 栽培漁業 / 訓練 / 放流 / 個性 / 水生生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、メジナおよびトラフグを用いて手網追尾訓練による行動特性の形成に関する実験を行い、学習による魚類の行動特性改善の一般性について検討した。その結果、メジナについてはマダイと同様に日常的な手網追尾処理を施すことで警戒心が向上することが確認された。このことは、本研究で計画していた多魚種での訓練効果の検証において、マダイ以外の魚でも訓練として適用できる可能性を示唆している。一方で、トラフグを用いた実験では、豪雨による水害の影響で実験を中断することや、病気の発生によって実験魚の大量斃死が起きたため、十分なサンプル数での検証はできなかった。しかし、生き残った少数個体の行動を測定したところ、マダイやメジナでみられるような行動特性の変化は確認されなかった。この理由として、トラフグは追尾処理時に隠れ家への逃避行動を示さなかったため、逃避行動に関する行動特性が変化しなかったことがあげられる。以上の実験結果から、手網追尾訓練は多魚で適用できる可能性はあるが、必ずしも全ての魚種に適用できない可能性があるため、訓練を適用する際は魚種の生態を考慮すべきだと考えられた。 また、魚類以外の動物において学習による行動特性の形成が成立するかどうかを検討するため、シナヌマエビおよびイソスジエビを対象とした実験を行った。その結果、どちらのエビ類についても警戒心の向上を示唆する行動特性に変化がみられたことから、手網追尾訓練は甲殻類の行動改善にも適用できる可能性が示唆された。甲殻類について学習による行動特性の形成を示した研究はこれまでにみられないことから、行動特性改善技術として新たな研究への発展性が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度においては、主に手網追尾訓練の適用性の検証を行った。飼育実験施設の設営と実験を行った。研究についての目立った成果としては、メジナでの行動特性の変化とエビ類での行動特性の変化が確認されたことがあげられる。メジナでマダイと同様の行動特性の変化が見られたことから、本研究で提案する訓練手法は多くの魚種に適用できる可能性が高い。また、エビ類での学習による行動特性の変化はこれまでに報告がないことから新たな知見だといえる。一方で、本年度は豪雨による水害や実験魚の病死のために実験を中断する問題がしばしば発生した。そのため、当初計画していた実験を十分に行うことができなかった。 また、行動特性の形成メカニズム解明について、グルコースを用いた分析によって手網追尾処理がストレスとして機能しているかどうかの予備実験を行った。追尾処理の90分後に血中グルコースを測定したところ、対照区と比べて追尾区で高い数値を示した。このことから、追尾処理はマダイにとってストレス刺激であることが示された。 先行研究から、追尾ストレス処理の継続的な経験によってストレス耐性が向上することが示されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に行われた血中のグルコース測定による予備実験から、手網追尾処理はマダイにとってストレス負荷となっている可能性が示された。一方で、より正確にストレスの効果を検討するにはストレスホルモンであるコルチゾルの定量が必要である。そのため、平成29年度は手網追尾時に生じるストレスの評価を血中コルチゾル量から推定する。また、行動特性が形成されることによってストレスに対する行動特性(警戒心やストレス耐性の向上)が変化することから、ストレスホルモンの内分泌動態が変化している可能性がある。そこで、処理個体にストレスを与えた際のコルチゾル分泌・消失過程について検討する。また、コルチゾルの分泌動態に違いが見られた場合、これを受容するグルココルチコイド受容体(GR)の機構に変化が生じている可能性があるため、処理個体のGRmRNA発現量の測定を行う。これらによって、ストレス特性形成に伴う生理メカニズムについて検討する。 また、前年度は手網追尾処理による魚類の喧嘩行動の減少効果を検討するためにトラフグを用いた実験を行ったが、病気の発生によって正確な効果を得ることができなかった。病気発生の一因として、同居水槽内での喧嘩行動の多発によって斃死個体が増加し、水質が悪化したことが発端であったと考えられる。そこで、次年度は隔離した水槽間で喧嘩行動を示す魚類(マダイやベタなど)を用いて、追尾処理によって喧嘩行動の減少がみられるかどうかを検討する。 研究期間の最終年度である次年度は、これまでに得られた知見を統合して訓練効果の検証実験を行う。当初予定していた大型実験施設でのメソコスム実験は使用できないことが確認されたため、天然海域での放流試験または他の大型水槽を用いた実験を行う予定である。
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Research Products
(3 results)