2015 Fiscal Year Annual Research Report
無機窒素動態に連動する土壌微生物群集解析による北方林窒素ミッシングリンク解明
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15J06157
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
礒田 玲華 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 北方圏生態系 / 窒素循環 / 土壌微生物群集 / 森林限界 / ツンドラ |
Outline of Annual Research Achievements |
森林限界線~ツンドラ生態系を含む北方圏生態系は温暖化の影響を受けやすく,温暖化による気温上昇が深刻である。温暖化により森林限界線が北上し,植生遷移に連動して物質循環も大きくシフトする可能性がある。しかしながら,北方圏には北方林の窒素循環ミッシングリンクと呼ばれる未解決の問題があり,温暖化が北方圏での窒素循環にもたらすインパクトの把握を困難にしている。北方林の林床土壌は,低温により有機態窒素の無機化が進行しにくく,また,その土壌や植物根からは窒素固定活性がほとんど検出されない。北方林は大量のバイオマスを維持しているため,未知の窒素循環システムの存在が強く示唆されている。27年度は,北方圏生態系における植生,土壌理化学性,土壌微生物群集の現状を把握することを第一目的とし,各因子と無機窒素代謝との関連を調査した。 スウェーデンおよびフィンランドにて夏~秋期の現地調査を行い,北方圏の様々な植生下における土壌理化学性の現状・季節変化を調査した。平成27年7月上旬~同8月下旬にかけてスウェーデン北部のAbisko Scientific Research Station 内のUmea大学Climate Impacts Research Centre に滞在,9月上旬にはフィンランド北部Kipisjarvi Biological Stationに滞在し,それぞれ現地調査を行った。Abiskoでは夏期における森林限界線近傍の植生と土壌微生物群集の遷移,ツンドラ植生と微生物群集を調査し,Kilpisjarviではツンドラ~森林限界3植生下のトランセクト調査とした。次世代シーケンサーによる群集解析とゲランガムソフトゲル培養法を用いたアセチレン還元試験から,土壌微生物群集と窒素固定ポテンシャルは植生タイプと関連していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初夏~初秋における2ヶ月間の現地調査で,土壌理化学性と微生物群集を追跡することができた。27年度の現地調査では,スウェーデンにて2ヶ月間に計3回同じサイトにてサンプリングを行ったほか,U字谷内に分布する北方圏を代表する5植生下の土壌を採取した。加えて,フィンランドでは,異なる植生を構成する隣接した垂直トランセクトをとり,森林限界~ツンドラへの植生遷移と土壌微生物群集遷移を調査した。 U字谷内の植生と土壌理化学性が関連していることを再確認し,植生毎に特徴的な真正細菌群集を構成していることを明らかにした。真正細菌群集は植生タイプに特に強く依存していた。次にゲランガムソフトゲル培養法を用いて各土壌の窒素固定ポテンシャルを評価した。5植生のうち3植生下の土壌で高い窒素固定ポテンシャルを示した。窒素固定ポテンシャルの有無に関連した真正細菌群集が検出されたことから,無機窒素代謝に関わる微生物種解明への糸口をつかんでいる。また,夏期における森林限界線近傍の土壌理化学性と微生物群集の遷移を見出した。窒素固定関連遺伝子の解析も行い,多様性が変化していることが明らかになった。さらに,森林限界~ツンドラへのトランセクト調査により,植生遷移にともなう真正細菌群集遷移を検出した。 以上より,北方圏生態系における微生物群集解析のデータを蓄積することができた。また,現地での土壌理化学性調査とを総合することで微生物群集と植生および土壌理化学性の関連を見出した。引き続き詳細解析を進めるとともに,無機窒素代謝との関連を精査する作業に入っている。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は現地調査を行い,土壌理化学性の調査ならびに土壌微生物群集の解析を進めた。今後は同年度の研究で得られたデータから窒素循環に関連する因子を精査するとともに,培養条件の検討を行い,現地環境を反映する実験系確立を目指す。27年度の微生物群集解析により得られた情報より,無機窒素代謝に関連があると推察される微生物種の分離を試みる。また,土壌および土壌培養物のRNA-Seqの準備も進めており,今後無機窒素代謝関連遺伝子の発現解析を行い,北方圏生態系における窒素循環システムの解明を目指す。
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Research Products
(2 results)