2015 Fiscal Year Annual Research Report
政治活動の越境的拡散と相互作用:離散地域とパレスチナ暫定自治区の関係性を軸に
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15J06223
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 啓之 日本女子大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | パレスチナ / 中東 / パレスチナ解放機構(PLO) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究実施状況について、以下の通り現地調査の成果および研究活動について報告する。
6月にかけて、レバノンの首都ベイルートにおいて2週間の調査を行った。本調査の目的は、研究所での文書資料の参照、書籍の収集、ならびに長期調査を実施する候補地としての事前調査である。ベイルートに拠点を置くパレスチナ研究機構(Institute for Palestine Studies)の図書館での資料参照ならびに刊行資料の購入、加えてアラブ統一研究センター(Center for Arab Unity Studies)での刊行資料の閲覧と購入、さらに市内に点在する書店での資料購入によって、1980年代から90年代にかけてのパレスチナ人の政治活動に関する文書資料を得ることが出来た。これら資料の分析結果は、現在国内の学会誌に投稿中である。 また、本年度はトルコ(アンカラ)での国際学会で報告を行い、地域研究的な立場からパレスチナ人の政治活動を捉えることの有益さについて発表を行った。パレスチナ人による政治活動の側から中東全域の地域秩序を捉えることによって、中東地域における和平交渉の停滞や現状の諸問題の要因の一つを示すことが出来ると提起した。また、日本国内で行われてきたパレスチナ問題研究の概要についても報告の中で紹介し、参加者より高い関心を得ることが出来た。この報告成果は、投稿に向けて現在校正を続けている。 こうした学術活動にくわえて、一般書籍として『パレスチナを知るための60章』の執筆によって、日本社会に向けた研究成果の発信に心がけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度(第一年度)は、資料の収集ならびに現地調査によって、パレスチナ人の政治活動の展開が、いかに国境(または境界)を超えてなされていたのかを、イスラエルの占領下にあったヨルダン川西岸地区およびガザ地区とその域外にあったPLO(パレスチナ解放機構)との関係性に着目して明らかにした。
a)レバノンへのフィールド調査(平成27年6月)によって、現地パレスチナ難民キャンプの現状を知るとともに、文献の収集・調査を進めた。特に、『アラブ統一日誌・文書集』(Wathaiq al-Wahda al-‘Arabiya, アラビア語)の参照により、中東地域の各国内部におけるパレスチナ人による政治活動の傾向を把握し、特に1980年代における西岸・ガザ地区(イスラエル占領下)とヨルダン政府、そしてチュニジアに拠点を置いたPLOがそれぞれ展開する政治活動の関連性が注目された。
b)以上の調査結果を踏まえて、質的研究として1980年代初頭に見られたヨルダンを仲介者としたチュニジアのPLO本部と当時いまだイスラエルの占領下にあった西岸・ガザ地区内部における政治活動の関係と相互作用について、一次資料に基づいた分析を実施した。その結果、パレスチナ人の展開する政治活動が、1980年代の頃から地域を越えて連動していく様子が確認された。武装闘争という面では1970年代から越境的な活動の連動が見られるものの、アメリカ(レーガン政権)が提起した和平会議に対する備えという高度な政治的次元で、政治活動の越境的な連動を確認できたのは成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、現地でのフィールド調査を中心として、暫定自治政府成立(1994年)後のパレスチナ人の政治活動の展開により焦点を絞って分析を行う。特にパレスチナ暫定自治政府が国連などの場において、「国家」としての体裁を整えていく中で、その枠組みから外れた人びと、具体的にはイスラエル国内のパレスチナ人、さらには周辺国に離散した状態の難民の政治活動に変化が生じたか否かについて検討する。
具体的な調査対象地としては、レバノンまたはイスラエル北部地域を想定しており、フィールド調査と文書資料の参照、収集を進める(現地情勢が流動的であることから、外務省の海外渡航安全情報などに従って調査地の調整を行う)。この調査では、地域レベル(都市部、農村部、難民キャンプなど)での差異にも留意し、現地研究者の協力のもとで調査を行う。 また、文書資料の収集も継続し、1990年代までパレスチナ人が数多く居住していた湾岸地域(クウェートなど)も調査対象地とする。ことにパレスチナ人組織が発行していた雑誌の所蔵確認と、内容の精査に重点を置きたい。こうした質的な分析に加えて、量的データの分析も引き続き進めていく。当初予定していたデータ資料に加えて、その他の量的データの参照、分析を行っていきたい。これらの成果はアジア中東学会連合(AFMA)の研究大会(モンゴルで開催予定)での報告に加え、国内外の学会誌、学術誌に研究論文として投稿する予定である。
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Research Products
(6 results)