2016 Fiscal Year Annual Research Report
政治活動の越境的拡散と相互作用:離散地域とパレスチナ暫定自治区の関係性を軸に
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15J06223
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 啓之 日本女子大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 中東 / パレスチナ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究実施状況について、以下の通り現地調査の成果および研究活動について報告する。 7月にオーストリアで開催された世界社会学会(ISA)の研究フォーラムに参加し、研究報告を行った。この報告のなかでは、パレスチナ人の政治運動の連動において、「記念日」が果たす役割を指摘し、評価を受けた。特に、パレスチナ人の政治運動の拡散と連動において、パレスチナ問題の歴史のなかで起きた大きな事件や幹部の忌日などが重要な役割を果たしていることを指摘した。こうした日程の影響にくわえて、昨年の調査の結果から、先行研究では注目されてこなかった実務者レベルの幹部たちが頻繁に中東各国を移動し、彼らが運動の重要なブローカーとなっているとの暫定的な結論を得た。こうした資料の分析は、年度を越えて継続する予定である。この結論の一例として、9月にモンゴルで開催されたアジア中東学会連合(Asian Federation for the Middle East Studies Association)の研究大会では、日本に設置されたPLO東京事務所がどのような政治活動をアジア地域で行っていたのかを、日本側から関わった人物による動きを含めて報告した。この成果は、モンゴルの国内雑誌に収録されている。一方で、より高位の幹部たちによる周辺国との政治調整については、資料を先行して分析し、『日本中東学会年報』に論文として発表した。これまでの研究では、アラファートのもとで働いた幹部たちの動向は決して明らかでは無かったが、この論文では通称「外務大臣」のハーリド・ハサンと軍事部門トップのアブドゥッラッザーク・ヤヒヤーによるヨルダンとの関係改善の試みを明らかにした。 さらに2月には、ヨルダン、イスラエル、パレスチナで現地調査を行い、市内書店や図書館、大学などでの資料収集、ならびに現地研究者との研究打ち合わせを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度(第二年度)は、資料の分析ならびに成果の発表によって、パレスチナ人の政治活動が既存の国境を越えて連動した事例を、具体的な一次資料に依拠して明らかにした。 a)一昨年のレバノンでのフィールド調査で入手した資料を分析し、PLO幹部のなかでもアラファートのもとで働いた幹部ハサンとヤヒヤーの政治的役割について検討を行った。ハサンはPLO内で当時「外務大臣」と称され、アラブ諸国とPLOの政治的関係を監督する立場にあった。また、ヤヒヤーはパレスチナ解放軍というPLOの武装部門の司令官であり、PLOと各国との関係で最も懸案となる「PLOが独自に持つ武装組織」の長であった。彼らが1982年以降に特に注目した国家がヨルダンであり、このヨルダンにPLOの拠点を再構築することで、1987年に始まるインティファーダが準備された側面があることを指摘した。 b)上記の研究成果は『日本中東学会年報』に論文として発表された。この分析のなかでは、1980年代初頭に見られたヨルダンを仲介者としたチュニジアのPLO本部と当時いまだイスラエルの占領下にあった西岸・ガザ地区内部における政治活動の関係と相互作用について明らかにした。すなわち、パレスチナ人の展開する政治活動は、1980年代の頃から地域を越えて連動していた様子が確認された。この連動をもたらしたものは、アメリカ(レーガン政権)が提起した和平会議であったという点も重要である。 c)この成果によって、パレスチナ人の政治活動の連動と拡散が、パレスチナとイスラエルの和平交渉の進展や停滞によって引き起こされるとの仮説が時代を遡っても適応可能であることが明らかになった。1993年のオスロ合意以降においてパレスチナ人の政治活動が連動を見せる背景には、情報技術の発展とともに、和平交渉の活発化も影響を与えているのではないか、との示唆を得るに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、これまで収集した資料と調査結果をふまえて、本研究の結論を示す。パレスチナ人は、ヨルダン、レバノン、シリア、エジプト、暫定自治区(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)に主に居住し、その他にもアメリカを始めとする欧米諸国にも住む。自治区という疑似国家が設立された後にも彼らが政治運動を連動させることがある点に着目し、本研究はすでに2年間の分析を行ってきた。 これまでの分析のなかで明らかになったことは、和平交渉の進展と停滞が政治運動の連動を引き起こす時期を決定する点、さらに決して著名ではない人物が頻繁に各地域を往来することで政治運動が連動するためのブローカーとしての役割を果たしている点である。また現在までの調査で、一部の難民化したパレスチナ人、ことに武装闘争に関与しなかった人物の動きが顕著であるように見受けられる。最終年度では、一昨年のレバノン調査、昨年のヨルダン、イスラエル、パレスチナ調査の結果をふまえて、上記の仮説をさらに検証していく。特に政治学における既存の政治運動の拡大と伝播に関する理論的知見と、本研究が明らかにしてきた事実を照らしあわせることで、既存理論の見直しや新たな理論の構築に取り組んでいきたい。 また、イスラエル、パレスチナなどへの追加調査を実施し、現地研究者との調整を経て、成果を国際学会や国際誌で報告する。現状において、存命中の人物のなかから回顧録を出版する動きが活発化しており、資料の収集を継続する必要がある。今年度には、本研究でこれまでに得た知見を現地研究者と協議し、国際学会での報告ならびに国際誌での発表を目指していく。こうした研究成果を、単行本として発表できるように取り組みを続けていきたい。
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Research Products
(5 results)