2016 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本における生活綴方運動史の研究―実践現場における教育思想の生成過程
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15J06380
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
永田 和寛 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生活綴方 / 戦後教育史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、戦後大阪の生活綴方運動における教育実践の実態を解明に取り組んだ。具体的には、1953 年から1956 年に至る大阪府泉北郡福泉町(現堺市)立福泉小学校大庭寺分校における野名龍二の生活綴方実践を検討した。従来の教育史研究では、1950 年代において学校と地域社会の間には截然とした懸隔が生じていたという問題が指摘されてきたが、この問題に対して野名の生活綴方実践がどのような役割を果たしたのかについて、次の2 点を明らかにした。(1)野名の実践の中で結ばれた集団は、個々人の多様な考えを重んじる「サークル」であった。(2)教師としての野名は、子どもや母親たちに「サークル」が結ばれる前提となる書くことや話し合うことに関する技術の付与を積極的に行っていた。これより、野名の実践は、地域社会を教師による技術の付与によって組み替えるものであり、ここに1950 年代における教育の公共性の歴史的性格を考えるための重要な手がかりを得られるものと考えられる。 第二に、こうしたミクロな生活綴方実践研究の意義を明確にすべく、戦後生活綴方運動の理論的指導者であった国分一太郎の「生活綴方」論の検討を行った。その結果、戦後における国分の「生活綴方」論には、児童の村小学校指導主事として活躍した野村芳兵衛からの影響が窺えることが窺えた。 第三に、史料収集及び聞き取り調査による戦後生活綴方運動史の研究を進めた。本研究では、「大阪綴方の会」に焦点を合わせてこの課題に取り組んできたが、今年度は、広島大学国語文化講座図書室に所蔵されている文集史料の調査(2015年5月16―17日)及び、戦後大阪における生活綴方運動に担い手へのインタビュー調査(2017年2月9日)を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究予定通り、戦後大阪の生活綴方運動における教育実践の実態を解明に取り組み、研究論文(「1950年代生活綴方運動における教師と地域社会―野名龍二の実践に着目して―」『京都大学大学院教育学研究科紀要』第63号)として発表することができた。 また、「生活綴方」概念にかかわる理論的整理や、史料収集及び聞き取り調査も順調に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、戦後大阪における生活綴方運動の思想的背景として国語教育者芦田恵之助の大正期から第二次大戦後に至る綴り方教育及び教育思想の検討の必要性が浮かび上がってきた。 芦田恵之助は、大正期の「随意選題」綴方の提唱者として、生活綴方運動の「源流」に位置づけられている人物である(久野収・鶴見俊輔『現代日本の思想』)。中内敏夫『生活綴方成立史研究』のように、従来の生活綴方運動史研究においても、広義の生活綴方運動の一つとして芦田の「随意選題」綴方運動は検討されてきた。「随意選題」については、とりわけ岡田式静坐法の創始者である岡田虎二郎の影響が指摘されてきたが、従来の研究においては、岡田―芦田の影響関係の内実については十分に検討が進められてこなかった。これに対して、近年宗教学方面から伸展を見せている岡田虎二郎研究の成果に学びつつ、岡田―芦田の影響関係の内実を具体的に明らかにし、芦田の「随意選題」論の再検討を図りたい。 もとより、本研究が着目してきた「大阪綴方の会」は、その創設者たちの多くが芦田の影響を受けていたことがわかっている。従って、上の研究を基礎作業として、戦後の「大阪綴方の会」の思想の特質の歴史的位置づけを明確化したい。
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Research Products
(2 results)