2015 Fiscal Year Annual Research Report
単一痛覚神経細胞とその標的による異種感覚刺激の弁別的な演算機構の解明
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15J06383
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小野寺 孝興 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 侵害覚受容 / 忌避行動 / カルシウムイメージング / 細胞外電位 / カルシウムチャネル / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物は外界からの刺激を感覚器・感覚神経により受容し、その情報処理をおこなう。刺激の中には生体に対して有害なものも含まれるため、それらに適切に応答し身を守ることは生存上必須である。ショウジョウバエ幼虫の一次感覚神経であるClass IV dendritic arborization neuron(Class IV neuron)は、異なる有害な刺激(高温、機械刺激、短波長光)に応答し、各々に対して固有の忌避行動を惹起させる(Tracey et al., Cell, 2003; Hwang et al., Curr. Biol., 2007; Xiang et al., Nature, 2010)。そのため、この神経が感覚入力を区別して処理して、下流の回路に情報を伝えると考えられたが、その機構は不明であった。 私たちは、赤外線レーザーを熱刺激装置として用いた顕微鏡観察系を構築した。そして、強い熱刺激時にClass IV neuronにおいて、単なる連続的な発火パターンとは異なる、高頻度の発火とそれに続く発火停止期で構成されるBurst-and-Pause型の発火パターンが生じることを発見した。この特徴的な発火パターンの発生には、L型電位依存性のカルシウムチャネルが必要であることがわかった。光遺伝学の技術を用いて、Class IV neuronにBurst-and-Pause型の発火パターンを強制的に誘導することに成功し、その際に熱刺激から逃れるための回転行動が亢進することを明らかにした。本研究成果は、英国科学雑誌「eLife」誌でオンライン公開された(日本時間2016年2月16日0時)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、これまで続けてきた研究内容が論文として実を結び、そこに至るまでの投稿・追加実験・修正に多くの時間を費やした。データを吟味する中で、今の研究内容をより厳しい目線で精査することができ、研究の内面的な姿勢や洞察力などの技能も磨くことができたと考えている。また、本研究に関連して2つの学会で口頭兼ポスター発表をおこない、双方ともに優秀な発表として表彰された。これらの学会は、生物学の各分野を超えた多くの研究者が集うものであるため、表彰を通して私の研究を神経科学を専門としない人にも分かりやすく伝えることができたという実感を得ている。 論文が受理された後は、Burst-and-Pause型の発火パターンがどのようにして生まれるかという生成機構に興味を抱き、新たな研究を進めた。遺伝子変異体やノックダウン個体の神経において熱刺激時の発火パターンを記録し、候補となる因子をスクリーニングした。また、これらのチャネルを薬理学的な手法で阻害することでもスクリーニングを試みた。その結果、幾つかのチャネルが目的の因子であることを発見した。一方、スクリーニングをする中で、あるチャネルがBurst-and-Pause型の発火パターンの生成には必要でないものの、神経の発火数を上昇させるのに必要であることも判明した。新たな研究課題も着実に結果を残しながら進んでおり、今後の成果に結びつくと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
新たな研究課題として、Burst-and-Pause型の発火パターンが「どのような分子・チャネルによって制御されているか」という生成機構と、「下流の神経回路でどのように情報処理されているか」という読み取り機構を明らかにすることが考えられる。昨年度は、前者のBurst-and-Pause型の発火パターンの生成機構の解明に重点を置き、幾つかのチャネルが目的の因子であることを発見した。当初は目的の因子は1~2つ程度であり、生成機構は単純な系であることを想定していたが、実際はそうでないかもしれない。つまり、より多数の因子が協調して機能することで、Burst-and-Pause型という特徴的な発火パターンは生成されると思われる。このように生成機構は複雑化することが予想されたため、今後、数理シミュレーションによってモデルを構築することを考えている。シミュレーションをおこなうことで、スクリーニングだけではわからなかった新たな因子の同定も可能だと考えている。 また、今年度は、上述の生成機構に関する課題を追及するとともに、下流の神経回路での読み取り機構にも着手する予定である。下流の中枢神経系にカルシウム指示体を発現させ、Class IV neuronに単なる連続的な発火パターンまたはBurst-and-Pause型の発火パターンを誘導することで、下流のカルシウム変動を観察する。発火パターンの差異によって下流の神経細胞群の応答が異なれば、それらの細胞を同定し、発火応答を記録することを考えている。
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Research Products
(5 results)