2015 Fiscal Year Annual Research Report
中国後漢鏡の主題解釈による儒教理念理解の実証的研究
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15J06384
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
楢山 満照 成城大学, 文芸学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 後漢 / 古鏡 / 儒教 |
Outline of Annual Research Achievements |
8月には名古屋市博物館で中国古鏡コレクションの実見調査を実施した。このコレクションは特に後漢鏡に優品が多いが、これまで体系的に学界に紹介されたことがないうえ、うち数点は儒教説話の登場人物をあらわした特異な作品であることが想定された。そこで、その人物の比定と主題の解釈を目的として、まず実見による予備調査を実施した。 9月6日から14日にかけては、中国四川省の四川大学博物館、安岳県文物管理所で作品調査を実施した。四川の後漢の画像石には西王母信仰と儒教説話が混交した特異な表現が認められる作品も多く、その主題解釈をおこなうことが本研究課題の重要な部分を占めていることが確かめられた。 11月には、黒川古文化研究所と東京国立博物館で調査をおこなった。黒川古文化研究所では、儒教説話の登場人物をあらわした「西王母車馬画像鏡」の実見調査を実施した。東京国立博物館では、丁蘭による孝行譚を図像化した画像石(山東省長清県孝堂山出土、1~2世紀)の調査を実施した。儒教においては崇祠する対象を目に見えるかたちで造形化する際に、いかなる方法がとられてきたのか。この作品の図像は、その方法に関して大いに示唆に富むものであり、本研究で後漢鏡の図像解釈をおこなううえで参考になるものであることが確かめられた。 下半期の後半には、調査で得られた成果の一部と、研究代表者のこれまでの研究成果を合わせて、『アジア仏教美術論集 東アジアⅠ』(肥田路美・濱田瑞美責任編集、中央公論美術出版、2016年9月刊行予定)に寄稿するための論文の執筆を進めた。「漢代の立体人物像にみる具象と抽象-中国における仏像制作の前史として」と題したこの論文においては、儒教の国教化が完成し、同時に夷狄の宗教である仏教が伝来した後漢時代には、具象的な人間性をもって尊像をつくることは漢民族の間では忌避されていたことを作品と文献の双方から論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成果として挙げられる論文と学会発表の数が少ないようにも思えるが、平成27年度は採用第1年度目ということもあり、当初の計画通り、次年度以降に論文や学会で成果を発表するための作品調査に注力した。日本および中国で積極的に調査を実施し、学会で未報告の重要な作品を丹念に拾い上げる地道な作業を続けており、それは次年度以降の研究の進展に着実につながるものと見込まれる。なかでも、黒川古文化研究所では「西王母車馬画像鏡」の実見調査を実施したが、この作品の銘文はこれまで未報告であり、後漢時代における儒教理念の具体相を美術作品から究明する本研究課題を遂行するうえで、欠くことのできない作品であることが確かめられたことは大きい。よって、3年間にわたる研究計画のなかでは、おおむね研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度目も引き続き国内外で作品調査を実施する予定であるが、それと並行して、第1年度目の調査の成果を学術論文と学会口頭発表というかたちで発信する。 まず、上半期には、6月開催予定の早稲田大学美術史学会例会において、漢代の立体人物像に及ぼした儒教の霊魂観の影響について口頭発表する。 また、9月実施予定のシアトル美術館、根津美術館での作品調査に向けた資料の収集・精査をおこなう。調査対象には歴史故事「尭舜禅譲」、「曾参投杼」が図像化されている。よって、文献方面ではそれに言及する『尚書』、『孝経』、『孝子伝』等の精査を進める。図像方面では公表されている図版をもとに、図像細部の描き起こし図の作成を進める。両機関ではこれまで予備調査を実施しておらず、なおかつ調査対象には一部未報告の作品を含む。よって、この調査の主たる目的は、詳細な図像の記録作業となる。調査方法とその効率化については1年目と同様の手法をとるが、ここでは高解像度・高画質デジタルカメラによる細部の撮影にもウエイトを置く予定である。調査後、三次元処理ソフトを用いて類似作品との比較検討をおこなうことにより、サビに覆われた部分を類推し、全体像の復元図を効率的に作成できるからである。 下半期には、1年目に実施した調査の成果と合わせて、論文として学術誌に投稿する。国内の後漢鏡の研究者が多く集う「日本中国考古学会」の研究誌『中国考古学』第16号を予定している。そこでは、後漢鏡にみられる儒教系歴史故事を複数提示し、儒教図像史に加えるべきこと、およびその意義について自説を展開する。それと並行して、1年目の研究成果の一部、すなわち中国後漢時代における儒教的霊魂観と仏像の関係性について、『仏教芸術』に投稿するための論文の執筆を進める。
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Research Products
(2 results)