2016 Fiscal Year Annual Research Report
中国後漢鏡の主題解釈による儒教理念理解の実証的研究
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15J06384
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
楢山 満照 成城大学, 文芸学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 後漢 / 銅鏡 / 儒教 / 画像石 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年度わたる本研究は、中国後漢時代の青銅鏡(以下、後漢鏡)の図像解釈を通して、国家が標榜した儒教の理念と民間レベルにおけるその理解内容との齟齬を、具体的に実証しようとするものである。採用第2年度目にあたる平成28年度は、アメリカと中国の美術館に所蔵される作品の調査を実施し、これまでの研究成果にそこで得られた新知見を加えて、単著として刊行することを計画した。 9月8日にアメリカのシアトル美術館、9月12日にスタンフォード大学カンターアートセンターで中国古鏡コレクションの実見調査を実施した。シアトル美術館のコレクションは1970年代にコレクションの概要が紹介されたのちは、詳細かつ体系的に学界に紹介されたことがなかった。なかでも、尭と舜が登場する儒教説話を図像化した作品は、本研究で想定される成果を裏付ける可能性のある作品であったため、この作品を中心として調査を実施した。スタンフォード大学カンターアートセンターのコレクションは、学界で未発表の資料である。スタンフォード大学の楊暁能教授の紹介のもと、まず実見による予備調査を実施した。その結果、貴重な西晋時代の紀年をもつ作品や、後漢時代の四川地域で制作された可能性が高い作品の存在を確認することができた。 今年度の大きな研究成果としては、当初の計画通り、単著『蜀の美術―鏡と石造遺物にみる後漢期の四川文化―』を刊行したことが挙げられる。特別研究員PD採用以前からの研究成果を土台として、それに採用後の2年間の調査成果と新知見を加えた内容となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の計画通り、単著『蜀の美術―鏡と石造遺物にみる後漢期の四川文化―』を刊行することができた。その内容は最終年度となる来年度の研究成果の基礎をなすものと位置づけており、この単著に盛り込めなかった研究成果は、来年度、学術雑誌に論文として投稿する予定である。 これまで、当初の研究実施計画の通り、アメリカと中国の所蔵先で作品調査を実施することができている。それにより、既発表の報告書には未掲載の儒教説話図像を確認することができ、現時点での本研究の見解の裏付けとなる資料を見いだしている。 また、特別研究員奨励費とは別に、今年度から2年度の計画で科研費(若手研究B)に応募し、採択された。その研究課題は特別研究員奨励費の研究課題で見込まれる成果と密接な関連性があり、来年度の双方の研究成果は相互に補完し引用し合うものになると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
上半期には、9月に香港で実施予定の個人コレクションの作品調査に向けた資料の収集をおこなう。この個人コレクションに関してはこれまで予備調査をおこなっていないため、ここでは図像細部の記録と撮影に重点を置きたい。 ただし、中国においては、諸般の事情により当初の計画通りに調査が進まないことも想定しなくてはならない。その場合、アメリカのクリーブランド美術館、日本国内の五島美術館、および早稲田大学會津八一記念博物館での調査に振り替える予定である。これらの機関には、図像の写し崩れの程度、鋳上がりの不鮮明さから判断して、後漢からやや時代が下ると思われる作品が所蔵されている。これらについても本研究の調査対象としていきたい。 最終年度の下半期は図像史料に基づいた本研究の実証的な成果をまとめる時期であり、国内外を問わずその成果を論文として投稿する。国内では復刊予定の『仏教芸術』への投稿が最適と考えている。あわせて、在外作品の主題解釈を中心に論じる論文は中国語と英語で執筆し、それぞれ『文物』と『Artibus Asiae』に投稿する。これらのトップ・ジャーナル上で発表することにより、各国の中国学研究者との超域的な研究の進展に寄与することが見込まれる。儒教の国教化が完成した後漢時代に、民衆は実際にその支配理念をどのように理解していたのか。造形作品から繰り返し浮かび上がるのは、儒教と神仙思想の濃密な交渉であるはずである。
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Research Products
(2 results)