2015 Fiscal Year Annual Research Report
タンザニアのダトーガ社会における放牧地利用の変化と社会関係の再編に関する地域研究
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15J06552
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮木 和 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 土地の囲い込み / 仔ウシの放牧地 / もめごとの調停 / 放牧地の希少化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、タンザニア北部エヤシ湖岸の牧畜民ダトーガの社会において、利用できる放牧地が歴史的にどのように変化し、共有地の囲い込みがどのように進行しているのかを明らかにして、そのことが社会関係の再編に対していかなる影響を与えているのかを解明することを目的としている。東アフリカの牧畜社会では従来、土地を私有せずに共同で利用してきたが、近年には個々人が共有の土地を囲い込む現象が拡大している。土地の囲い込みに関する先行研究の多くは、国家の政策などが直接の契機となって、従来の牧畜民自身のルールとは異なる原理に依拠して土地を囲い込んだ事例を報告してきた。しかし、従来の実践にもとづいて、あるいはそれを再解釈することによって土地を囲い込んだ事例の詳細な報告は多くない。 本研究の結果、以下の点が明らかになった。1)調査地の定住地では1980年代以降、従来の実践にもとづいて、個人が共有地を囲い込む現象が拡大した。ダトーガの人びとは、農地の拡大や近隣民族との争いのなかで旧来の放牧地を失った結果、1980年代に湖岸地域に定住し始めた。その後にこの地域では、人口と家畜数が増加して放牧圧が高まるなかで、土地の囲い込みが拡大した。2)調査地の住人は今日、湖岸に定住ホームステッドをおき、乾期には、多くの世帯は丘陵に家畜の季節キャンプを設置して、水と草地の状態にもとづいて家畜を移動させながら牧畜を営んでいる。土地の囲い込みの目的は主に、定住ホームステッドで飼養する家畜のうち、日帰り放牧において遠くへ移動できない家畜を放牧するための草地を確保する点にある。3)個人による土地の囲い込みは、共同体による規制を受けている。調査地では近年、囲い込みをめぐってもめごとが頻発し、共同体の長老会議などの場で調停されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究により、以下の点を明らかにした。 (1)放牧地の歴史的な変化:1980年代からこれまでに、エヤシ湖の周辺地域にすむダトーガの人びとが利用する放牧地は、農地の拡大や近隣民族との争いのなかで縮小してきた。そのなかで地域の人口と家畜の密度が増加して放牧圧が高まった。この現象は土地の囲い込みの拡大と並行して進行してきた。 (2)現在の放牧地利用:囲い込まれた放牧地やそのほかの放牧地が、年間を通した放牧のなかでどのように利用されているかを明らかにした。定住ホームステッドで飼養する家畜のうち、主に、日帰り放牧において遠くへ移動できない家畜が、乾期に囲い込まれた放牧地で放牧地されていた。家畜の放牧活動の詳細は、乾期の終わりから雨期にかけての期間について調査をおこなった(平成27年度に実施)。 (3)囲い込まれた土地の分布の経年的変化:2005年、2013年、2016年における、調査地の囲い込まれた放牧地とホームステッドの分布を明らかにした。住人が土地を囲いこむ場所が、その住人のホームステッドの周辺であることは先行研究で指摘されているが、この傾向は今日の調査地においても合致する。 (4)土地をめぐるもめごと:調査地では近年、土地の囲い込みが拡大するなかで、土地をめぐるもめごとが頻発しており、地域の住人は、それらのもめごとを長老会議などの場で調停している。そのような調停の結果、一度は囲い込んだ土地の利用を放棄した事例や、囲い地を縮小した事例が存在した。すなわち、囲い込みは共同体による規制を受けていることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に実施する予定の現地調査とそのデータの解析により、以下の点を明らかにする。 (1)放牧地の歴史的な変化:調査地域の近年の土地利用における著しい変化は、農牧民スクマが丘陵で放牧するようになったことである。この変化について、調査地の住人や、他地域に住むスクマ男性に聞き取りをおこなって明らかにする。 (2)現在の放牧地利用:乾期のはじめからなかばにかけての放牧活動の詳細を明らかにする。 (3)囲い込まれた土地の分布の経年的変化:2005年以降に、土地の囲い込みが拡大したプロセスを詳細に検討するため、i) 2016年の5~9月における、囲い込まれた土地とホームステッドの分布とそれらの所有者、およびii) 2005年8月における、囲い込まれた土地とホームステッドの所有者を明らかにする。 (4)土地の囲い込みをめぐるもめごと:調査地の住人への聞き取りにより、土地の囲い込みをめぐるもめごとの事例の詳細を明らかにして、住人がどのような言説を、どのような場面で参照し、それが他の住人に認められたのかを分析する。
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