2015 Fiscal Year Annual Research Report
赤外分光法を用いた微生物型ロドプシンの水素結合環境解析
Project/Area Number |
15J06609
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 奨太 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 赤外分光法 / 光受容タンパク質 / 微生物型ロドプシン / イオンポンプ / 非調和振動 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、タンパク質の構造決定が発展しているが、水素結合供与基にあたるX-H基の環境まで詳細に調べることは未だに難しく、この点、高精度の中赤外分光は優れた技法である。本研究では、光受容膜タンパク質であるイオン輸送型微生物型ロドプシンの解析を行う。微生物型ロドプシンは様々なイオンを輸送する種類があり、それらの系統的な構造解析を行う中で、微生物型ロドプシンの機能発現とそれに重要な構造的要因・水素結合環境を明らかにすることを目的とする。
KR2の水素結合環境解析(中赤外分光法) 近年発見されたナトリウムポンプ型ロドプシンKR2は、種々の分光法や結晶構造解析などによりナトリウムの輸送経路やメカニズムが活発に研究されている。また、溶液交換に伴う赤外差スペクトル法(ATR-FTIR法)や結晶構造によって、ナトリウムがKR2の細胞外側サイトに結合していることが示された。 本研究では、ATR-FTIR法において、KR2試料や赤外分光器の最適化を行うことで、水溶液中においてノイズとなる水由来の信号を減らし、タンパク質の反応前後の水素結合供与基の情報を抽出することに成功した。さらに同位体試料や部位特異的アミノ酸置換体試料の測定を組み合わせることにより、KR2はナトリウム結合に伴ってTyr25とAsp102とで非常に強い水素結合を形成し得ることを明らかにした。このことは、ナトリウム結合のためには単に負電荷アミノ酸を配置しているのではなく、特異な水素結合環境を用意することが重要であることを示唆している。またこの水素結合構造を失くしたKR2のナトリウム非結合状態では、タンパク質の構造が不安定になることが示されていることからも、KR2の構造安定化とナトリウム結合環境との関係性を示すものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年のゲノム解析や結晶構造解析などの進展によって、多くの新規微生物型ロドプシンの発見とともに、構造基盤的分子メカニズム解析が行われている。我々のグループも光駆動ナトリウムポンプロドプシンKR2を発見し、その結晶構造と機能解析を組み合わせることで、KR2がどのようにナトリウムを輸送しているのかを明らかにしつつある。 KR2はナトリウムを始状態で細胞外側に結合していることが全反射赤外分光法(ATR-FTIR法)により明らかになっている。今回、私はATR-FTIRの分光器とKR2試料の最適化を行うことによって、ナトリウム結合に伴う赤外差スペクトルの検出範囲を1800-1000 cm-1から4000-1000 cm-1領域に拡張した。このことは、タンパク質の反応前後の水素結合供与基の情報を抽出することを意味する。ATR-FTIR法は、水素結合供与基の信号が溶媒の水分子の信号にマスクされてしまうためこの領域の測定は厳しいと思われていたが、今回の試料と分光器の最適化を行うことにより、始めて実現するに至った。 さらに同位体試料や部位特異的アミノ酸置換体試料の測定を組み合わせることにより、KR2はナトリウム結合に伴ってTyr25とAsp102とで非常に強い水素結合を形成し得ることを明らかにした。このことは、ナトリウム結合のためには単に負電荷アミノ酸を配置しているのではなく、特異な水素結合環境を用意することが重要であることを示唆している。またこの水素結合構造を失くしたKR2のナトリウム非結合状態では、タンパク質の構造が不安定になることが示されていることからも、KR2の構造安定化とナトリウム結合環境との関係性を示すものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにKR2の始状態でのナトリウム結合サイトの構造解析を行った。次のステップとしては、光反応中間体でどのような変化をしているのかを明らかにする予定である。この解析を進めることは、始状態で結合していたナトリウムが光反応過程で結合したままなのか、解離するのかといった、ポンプメカニズムを考えるうえでの重要な知見を与えるものと思われる。 KR2はナトリウムイオンをポンプするだけでなく、溶媒条件下によってプロトンを輸送することも知られている。系統的な部位特異的アミノ酸変異体を用いた機能解析により、プロトンポンプ機能に重要なアミノ酸がKR2の細胞外側にあることが明らかにされた。これらのアミノ酸がプロトンポンプ機構に与える要因を赤外分光法により解析する。これらの解析を通じて、KR2がプロトンとナトリウムといった別々のイオンを輸送できるメカニズムを明らかにしていきたい。 また一方で、最近我々のグループは新たな機能をもつ微生物型ロドプシンの発見に至り、現在その機能がどのように発現しているのかを調べている。赤外分光法を用いた構造解析を適応させることによって、分子メカニズムの解明を行う予定である。
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Research Products
(10 results)