2016 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内シグナル伝達ネットワークの光制御に向けた分子創成
Project/Area Number |
15J06657
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉田 一帆 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | オプトジェネティクス / シグナル伝達 / ロドプシン / 酵素 / GPCR / 環状ヌクレオチド / 生物物理 / 機能創成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では細胞内のシグナル伝達ネットワークを光で制御する分子をデザインし、オプトジェネティクスに有用なツールを開発することを目的としている。本年度の研究成果の概要を以下に記述する。 1. 襟べん毛虫という微生物において、光受容体であるロドプシンと、ホスホジエステラーゼ(PDE)が連続した遺伝子コードをゲノム中に持つことに着目した。この新規酵素型ロドプシン(Rh-PDE)を哺乳類細胞に発現させ、酵素活性を調べたところ、光照射に伴って環状ヌクレオチドを加水分解することが分かった。さらに、cGMPに対する分解活性がcAMPに対する活性よりも10倍高いという基質特異性を示した。しかし、暗条件でも分解活性を示すため、応用に向けて光スイッチ機能を改良していく必要がある。 次にRh-PDE全長を精製し、光活性化のメカニズムを調べたところ、光照射により短波長に吸収を持つ中間体が生成し、数分かけて元の状態に戻ることが分かった。これらの成果はThe Journal of Biological Chemistry誌に掲載予定である。 今後は過渡吸収測定や赤外分光測定などを用いて、より詳細に光反応メカニズムを解明していくとともに、光スイッチ機能の改善に向けた変異体の探索を行っていく。 2. 微生物型ロドプシンを鋳型としたGタンパク質活性型キメラタンパク質の研究では、活性化能を評価するためにcAMP依存性カルシウムチャネル(CNGA2)を細胞に発現させ、カルシウム蛍光イメージングを行った。しかし、CNGA2の発現効率が非常に低く、評価を行うには困難であった。今回、発現の改善を期待し細胞種を変更したところ、CHO-K1細胞で発現効率が増大した。今後は安定発現株を樹立し、キメラタンパク質の活性化能の評価を行うとともに、生体内への応用に向けて、更なる性質改良と安全性の向上を目標に、様々なデザインを検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度において、以前より取り組んできたキメラタンパク質の研究では、評価系の確立を目指し、様々な条件を検討した。その中でも、細胞の種類を変更することで発現量が改善され、今後のキメラタンパク質の活性評価に大きな期待が持たれた。 加えて、本年度から酵素型ロドプシンの研究にも着手した。酵素活性の評価系を新たに立ち上げ、最適な条件の確立を目指し、何度も試行錯誤を重ねた。その結果、実際に新規酵素ロドプシンが光により活性を示すことを明らかにした。さらに、酵素ロドプシン全長の単離精製を行い、分光測定により光による活性化メカニズムを調べた。可溶化率が非常に低いため、様々な界面活性剤を検討し最適条件を模索する必要があるものの、分光測定を行うためのタンパク質量を得ることができた。ここで、過去に報告されている酵素型ロドプシンは、全て酵素部位を除去したロドプシン部位のみでしか精製ができていなかったため、今回世界で初めてとなる酵素ロドプシン全長での精製に成功したといえる。これらの酵素活性と分光測定の結果を合わせて、本年度末には論文が査読を通過することができた。 このように研究は期待以上に進展しており、今後の展開にも大きく貢献したことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度では、キメラタンパク質の活性評価系の改善を行った。今後は安定発現株を樹立し、作製したキメラタンパク質の活性を調べ、機能の向上を目指してデザインを検討していく。なお、これまではGタンパク質活性化という1つの機能に特化したデザインを考案していたが、平成29年度では、さらにイオン輸送能を保持した2つの機能をもつキメラタンパク質を作製し、使用目的に応じたデザインを考案していく。 Rh-PDEについては、光吸収によってどのように酵素活性を発揮するのか、その分子メカニズムを解明していく。精製タンパク質を用いて、赤外分光法により基質や酵素ドメインの有無による信号を比較したり、過渡吸収法により光反応に関わる中間体を同定したり、分子特性を詳細に調べていく。また、Rh-PDEはツールとして細胞内シグナル伝達の光操作技術に役立てることも期待される。しかし、そのためには、光スイッチ機能や基質特異性などを遺伝子改変技術により改良する必要がある。これまでに、酵素活性がリン酸化により制御されるという例が報告されており、Rh-PDEにもリン酸化を受けうるアミノ酸が複数個存在していることから、リン酸化制御を受ける可能性が示唆される。まずはリン酸化解析を行い、実際に細胞内でRh-PDEがリン酸化を受けているのかを調べる。その後、必要に応じて変異体を作製し、酵素活性を調べていき、最終的には光照射条件でのみ酵素活性を示す分子の創成を目指す。また、PDEの基質結合部位には特異性を区別できるようなアミノ酸が保存されておらず、どのような要因で基質特異性が決まっているのかが不明である。そのため、Rh-PDEの酵素ドメインを機能既知のPDEと入れ替えたキメラタンパク質を作製することにより、基質特異性を変化させることを計画している。以上のような計画により、オプトジェネティクスに有用なツールをデザインしていく。
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Research Products
(3 results)