2015 Fiscal Year Annual Research Report
LHC-ATLAS実験におけるベクターボソン対に崩壊する新粒子探索
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15J06669
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野辺 拓也 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 新粒子探索 / LHC / ATLAS実験 / ジェット内部構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
CERNに建設されたLHC加速器は2年間に及ぶ長期調整期間を経て2015年5月Run-2実験を開始した.陽子陽子衝突の重心系エネルギーは13 TeVに達した.本研究ではLHCに設置されたATLAS検出器で本年度取得した積分ルミノシティ3.2/fbの全データを用いて解析を行った. LHCで重い新粒子が生成されベクターボソン対に崩壊する事象の発見を目指す.重心系エネルギーの向上によって1 TeV以上の質量を持つ重い新粒子の生成断面積は2012年までのRun-1と比べておよそ10倍となった.したがって,この領域に着目すると本年度取得したデータで既にRun-1を上回る感度で新粒子探索が可能である. 2つのベクターボソンのうち一方がレプトン崩壊し,もう一方がハドロン崩壊するモードに着目した.このモードは崩壊分岐比が比較的大きく,背景事象も少ないため高い発見能力が期待される.本研究では (1) ハドロンジェットの内部構造を詳細に研究し,ベクターボソン由来の信号に対する検出効率を保ったまま背景事象を削減した.(2) 事象を記録するトリガー条件を考案し,信号の検出効率を約20%向上させた.(3) 背景事象の研究から事象選別の最適化を行い,信号の発見感度を従来と比較して約10%向上させた. 解析の結果,見積もられた背景事象を有意に上回るデータは観測されなかったが,ランドール=サンドラム模型で予言される新粒子Bulk RSグラヴィトンの信号を仮定すると質量約1 TeV以下の領域を棄却し,Run-1データから得られた制限をおよそ300 GeV改善した.研究結果を2015年12月にATLAS実験報告書(CONF Note)で公表した.2016年3月にイタリアLa Thuileで行われたMoriond QCD国際会議に参加し,グループを代表してこの結果を含むATLAS実験最新結果を報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Run-2初年度である本年度は積分ルミノシティ3.2/fbのデータ取得に留まったが,上で述べたように高質量領域では既にRun-1を上回る感度を達成可能であり,取得したデータを速やかに解析して結果を公表することが重要であった.Run-1での解析をベースに,上で述べたような感度向上のための改良を施した.解析は順調に進み,結果を12月にATLAS実験報告書(CONF Note)として公表できた.この結果を含むATLAS実験最新結果をMoriond QCD国際会議で発表した.現在結果を他のチャンネルと統計的に組み合わせて学術論文として公表する準備を進めている. 解析はCERNに積極的に滞在して行った.現地ではデータ取得の要となるトリガーシステムの専門家として,シフトを取って検出器の運営に携わった.大型実験の中で自分の役割を果たし,実際に検出器を動かしてデータ取得に貢献する事も大切だ.
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Strategy for Future Research Activity |
ボソン由来のハドロンジェットを同定する新手法の開発を本格的に開始する. 本年度用いたこれまでの手法では,カロリメータで測定したエネルギーのジェット内部での相関分布に着目した.この手法では高い信号対背景事象比を実現するため信号の検出効率は約50%と高くはなかった.本研究では,これに加えて内部飛跡検出器の情報を組み合わせる事で,信号対背景事象比を高く保ったまま検出効率の改善を目指す.多変量解析の手法を試みる.新手法はヒッグスボソンやトップ・クォーク由来のハドロンジェット同定でも応用できる.開発したボソン同定手法を物理解析で用いる.その上で背景事象の理解をさらに進め,事象選別の最適化と,系統誤差の削減を行う. 本年度は積分ルミノシティ約25/fbのデータを取得予定である.全てのデータを用いた解析で本年度を大幅に上回る感度で新粒子探索を行う.膨大なデータを処理するため,近年GPUを用いたソフトウェアの高速化が注目されている.本研究ではこうした新技術を積極的に取り入れ,解析手法の最適化を図る.本年度はGPUを搭載したコンピュータを購入してそのための環境を整えた.
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Remarks |
上記2件は,本研究で行った解析のATLAS実験報告書(CONF Note)である.
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Research Products
(7 results)