2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J06699
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
和泉 悠 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 確定記述 / 固有名 / 実験哲学 / 言語哲学 / 日本語 / 意味論 / 認識論 / 文化的差異 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は次の三つの目的を持ち,本年度は,それらを完遂するための予備的な研究と実験を行った.(1)「英国の女王」などの確定記述に対して与えられてきた諸理論の経験的優劣を明らかにする.(2)名詞以外で文脈に意味が依存する表現(「欲しい」などの心的態度動詞,「かもしれない」などの様相表現,「おいしい」などの嗜好表現など)を分析する. (3)上記2つの成果を知識動詞など,認識論的に重要な表現へ応用し,言語研究の認識論的帰結を探る. (1)確定記述・固有名の意味に関する直観を調べた言語横断的な先行研究 (Machery et al. 2004, Semantics, Cross-cultural Style など)における日本語・中国語に関する問題点を指摘し,それを修正した実験を共同研究者と行った.これは,ことばの直観に関して,東洋人・西洋人の間に差異があるとする現在主流的な立場を批判する,重要な独立の研究成果である.また(1)を進め,確定記述一般の性質を明らかにする実験をさらに行うための予備的知見も得た. (2)に関する文献の精査を行い,「おいしい」といった嗜好表現分析について,有望とみられる立場に関する研究発表を行った.ことばの意味の内容として措定される「命題」に関する近年の文献を考察し(Scott Soames, 2015, Rethinking Language, Mind, and Meaningなど),心的対象として理論化された命題によって,嗜好表現の分析が可能であると主張した. (3)に関して,共同研究者とともに,日本語の実践的な知識表現「どう...するか知っている」についての研究論文を執筆した.英語と日本語の実践的知識表現を比較することにより,日本語の実践的知識表現は,英語の実践的知識表現と異なり,主体へ能力を帰属しないということが判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はおおむね順調に進んでいる.順調であることの第一の理由は,3つの研究目的それぞれについての研究が進められ,研究成果を残すことが出来た点にある.まず,日本語名詞表現の理論的分析に基づき,英語の確定記述とどのように違うのかを示す実験を行い,共同研究者とともに論文を執筆した.また,嗜好表現についての理論的分析に関して,研究発表を行い,一定の成果を与えることが出来た.さらに,知識表現に関して,実験と理論的分析双方を通じて,日本語と英語を細かく比較した論文を共同研究者とともに執筆した.これらの論文は,草稿の執筆を終えており,国際誌に投稿を行う予定となっている. 進捗が順調である第二の理由は,実験哲学・実験的意味論・語用論という萌芽的分野における手法を実践するための,具体的ノウハウを蓄積することが出来た点にある.百人単位の被験者を用いて,言語に関する特定の予測を検証する実験を複数回行い,その過程において,実験の準備・施行・分析すべてに関わり,二年目以降の実験を進めるための知見を得た.実験はオンラインによるもの,教室で行われたものと,複数のアプローチを試した. 進捗が「おおむね」である理由は,統語論的な実験と理論の構築を行うことが出来なかった点にある.本研究の遂行には,潜在的代名詞が示す特徴としての「弱交差」と呼ばれる統語論的現象を観察し,意味論的分析・言語哲学的分析に応用させる,という段階が存在する.本年度は意味論的研究を主に行い,固有名,確定記述,そして知識表現に対する実験は行えたものの,統語論的な弱交差現象に対する実験を行うことが出来なかった.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は,今後二つの方策を用いて進められていくべきである.第一に,これまでに進められた研究を,発展・拡張していくことが必要である.日本語・英語双方における固有名・確定記述の特徴についての意味論的な実験をさらに行うことによって,これらの名詞表現の正しい理論を検証していく.さらに,「おいしい」などの嗜好に関する表現のみならず,「…たい」,「欲しい」といった態度・心理表現に対しても意味論的考察を与え,分析を提出していく.また,これまでは実践的知識表現に絞って研究を行ってきたが,知識表現一般に関しても,日本語・英語の比較を通じて,詳細な分析を与えていく. 第二に,今後は,意味論的な分析を補完するものとして,統語論的な弱交差現象に対する研究を進める.一般的な弱交差現象に関するデータを取得し,それを確定記述や他の表現などの振る舞いへと適用する.これにより,先行研究が提示する諸分析の優劣を判定し,また必要ならば,新しい意味論的分析を提出する.
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Research Products
(6 results)