2015 Fiscal Year Annual Research Report
分裂国家と在外国民:戦後中華民国の国籍政策に見る「国民の制度化」失敗の研究
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15J06792
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鶴園 裕基 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 入境管制 / 在外国民 / 移動管理 / 法的地位 / 入管体制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では「戦後台湾国家の「国籍」をめぐるポリティクスの検討を通じて、現代における台湾と華僑華人の関係性の起源を明らかにする」ため、台湾における複数のアーカイブでの調査を実施し、必要な史料を収集した。これらの史料の分析を通じて得られた知見は以下の通りである。 従来の想定では見落としていた、戦前期からの華僑と中華民国の関係が、1949年の国民党の台湾への撤退を契機としていかに変容したか、という問題を発見した。これは、1970年代の台湾の国際的孤立期における台湾国家と華僑の関係性の前段階を成している。 上記の発見に基づき、研究計画段階で提示していた「華僑の法的地位」の観点から史料を検討したところ、1949年を境にして、中華民国の国民であるとされていた華僑が、台湾への入境が極端に制限されたことが史料の上から確認された。 この点を踏まえて報告者は、戦後初期から中台分裂に至る時期における台湾の入管政策を検討し、次の点を明らかにした。(1)当初、日本から台湾を接収した中華民国の台湾当局は、海外からの帰還者(とりわけ、海外で生活困難に陥った台湾人)を受入れ、大陸からの渡航者に対しても自由往来を認めていた。(2)しかし、大陸における国共内戦の戦況悪化に伴って、台湾当局は身分確認の出来ない者の上陸を違法化し、華僑に対しては在外公館によって発行された身分証の携帯を義務化した。(3)このような施策は、中央政府の台湾への撤退に伴って大幅に強化され、大陸かそれ以外の海外地域かを問わず、台湾に入境を希望する者は政府機関の許可なしには台湾島への上陸が禁止された。これによって、在外台湾人を含む海外華僑は、帰国が極めて困難となった。 上記の内容は、平成28年2月に東京で開催されたワークショップにおいて、同3月には台湾の国際シンポジウムにおいて報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献研究における最初の関門は関連する史料の収集である。本研究は華僑の法的地位の問題を明らかにするため、台湾を中心とした外交文書を分析するするというアプローチをとる。この資料収集方面においては、昨年度に一年間台湾中央研究院に在籍し、台湾における関連史料を幅広く収集できたことは重要な進展であった。とりわけ、出入国管理、在外国民管理等の、いわゆる「領事事務」に関係する、本研究にとって必要不可欠な外交文書が大量に入手できたことは大きい。 以上の収集した資料の分析を通じ、昨年度は「研究実績の概要」に記した研究成果を世に出すとともに、研究の枠組みをより精緻化することが出来た。このような研究進捗状況は、おおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題の推進方策としては、昨年度に収集した(1) 一次資料の解析を進め、(2) 日本に所蔵される関連文書を収集するとともに、(3) 研究成果を積極的に公開していく方針を取る。(1) 資料解析の方面では、(a) 台湾の在外国民管理システムである華僑登記制度の形成過程を検討し、それが日本国内においてどのように運用されていたのかを明らかにする。その上で、(b) 中華民国政府の日本華僑に対する政治統制がどのようにして開始したのか、その起源を明らかにしていく。また、(c) 終戦直後における在日中国人、台湾人の送還についてもあわせて資料に基づいて整理する。(2) 日本に所蔵される関連資料については、国会図書館、東洋文庫、東大東文研の資料を集めるほか、華僑の個人文書もアプローチしていく。(3)研究成果の公開に関しては、1949年以降の台湾における入管政策について、8月に中国四川省での研究報告を予定している。また、昨年度3月にシンポジウム報告を行った内容は、今年度中に台湾で中国語の論文集として出版される予定である。
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