2016 Fiscal Year Annual Research Report
現代ベトナムの高等教育における大学教授職の特質に関する比較的分析
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15J06820
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
関口 洋平 神戸大学, 大学教育推進機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 体制移行 / 大学教授職 / ベトナム / 高等教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、体制移行に伴い市場化が進展するベトナムに着目し、大学と国家研究機関から構成される大学院の機能と構造を検討することを通じて、ベトナム高等教育における大学教授職の特質を明らかにすることを目的とする。平成28年度は、大きく①ベトナム高等教育における共産党と大学教授職との関係に関する検討、②大学教授職の実態に関する現地調査、そして③体制移行と高等教育のありように関する理論的検討である。具体的な内容としては第1に、共産党と大学教授職との関係については、ベトナムの大学教員における「紅」と「専」の概念に焦点をあて、歴史的観点から従来体制における大学教員と党の関係について検討した。検討から、従来大学教員に求められた「紅」と「専」は、現在はそれぞれ別の体系に置かれるようになっており、大学教授職の専門性や研究活動により重点が置かれるようになりつつあることが示された。 第2に、大学教授職の実態に関する現地調査としては、首都ハノイにおける多数の高等教育機関における大学教員を対象に聞き取り調査および質問紙調査をおこない、ベトナムの大学教授職の実態を実証的に明らかにした。こうした調査から、ベトナムの大学教授職は、全体として専門性と関わる大学自主権の拡大を背景としつつ、ミクロにみれば国立大学では上層部の大学教員ほど専門性に加え共産党とのつながりが強いのに対し、私塾大学では大学教員が共産党から離れ、より企業の論理が強調される傾向にあることが示唆された。 第3に、体制移行と高等教育のありように関する理論的検討については、ベトナムを中心に、従来の大学教授職を特徴づける大学における「教育と研究の分離」原則について批判的な検討をおこなった。検討から、従来体制では、抗仏戦争やベトナム戦争という状況下で国家を維持し戦争に勝利するという論理のもと、大学には積極的に研究が求められていたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況について、おおむね順調に研究が進捗していると自己評価する理由は、以下の通りである。本研究課題では、体制移行期のベトナム高等教育における大学教授職の特質に関して、制度面と実態面からの検討とともに、その前提となる理論を構築する3年間の研究を進めている。その第2年度にあたる平成28年度には、比較的長期におよぶベトナムでの現地調査と関連する資料の収集・分析をおこない、研究課題に積極的に取り組んだ。具体的には、研究実績の概要においても記した通り、社会主義国ベトナムにおける大学教授職を規定する共産党・党員の論理である「紅(徳)」と「専(才)」という概念に関する検討、ベトナムの首都ハノイを中心とする大学教授職の実態に関する調査とその特質に関する検討、そして体制移行と高等教育の相互の関係についての理論的検討といった点で、学会発表を中心として成果を挙げることができた。これらの成果はほぼ所期の進捗状況にあると評価することができる。なお、研究を進める過程で、これまでのベトナム高等教育における大学像や大学教授職のあり方に再検討を迫る新たな発見が得られた。加えて、現地調査の過程で存在が新たに確認された論文集や文献、現地の研究者・大学教員とのネットワークの構築など、当初の研究計画の枠を超えた進展も見られる。こうしたことは、3年目において本研究の完成を期すうえで重要な研究上の進展であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、大きく①大学教授職をめぐる学術研究体制に関する歴史的検討、②大学教員の特性・実態に関する現地調査、③大学教授職の形成と学位の機能に関する検討、そして④体制移行と高等教育の相互関係性に関する理論的枠組みの構築の4つの観点から研究を進める予定である。具体的には、①大学教授職をめぐる学術研究体制に関する歴史的検討については、多数の省庁が独自に大学を設置し管理している状況(多数省庁所管方式)における研究費の配分構造について検討するとともに、教育部および非教育部に所管される大学の財政に関する運営自主権の実態について明らかにする。また②大学教員の特性・実態に関する現地調査は、平成27年度・28年度に首都ハノイで実施した大学教授職に関する質問紙調査の結果を踏まえ、引き続きハノイを中心に聞き取り調査を実施し、大学管理運営上の党委員会の役割をはじめとして大学における党組織と大学教授職との関係について明らかにする。③大学教授職の形成と学位の機能に関する検討については、近年の進士学位のありようが、国家資格から学術研究に関わる大学人に付与される最高位の学位へと転換しつつある状況の背景について、新聞や研究論文を手がかりに明らかにする。そして④体制移行と高等教育の相互関係性に関する理論的枠組みの構築に関しては、先行研究の検討を中心に、中国および旧ソ連(ロシア)における体制移行と大学制度の変容について説明枠組みの構築を図る。こうした研究の成果は、博士学位請求論文(京都大学)を中心に得られた知見を発表する予定である。
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Research Products
(1 results)