2015 Fiscal Year Annual Research Report
南東マヤ地域におけるモザイク石彫の様式-モザイク石彫から見る社会変化-
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15J06914
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平尾 雅代 金沢大学, 人間社会環境研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 南東マヤ / コパン / モザイク石彫 / 凝灰岩 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代マヤ文明の南東地域の中心都市であったコパンでは6世紀~9世紀にかけて、建造物に凝灰岩を使用したモザイク石彫を装飾する特徴がある。装飾モチーフには、支配者や神像、官職などが表現され、当時の社会復元に大きく貢献した。しかし、コパン周縁部の地方センターのモザイク石彫の解明は進んでいない。そこで、地方センターのモザイク石彫が当時の社会とどの様な関係にあるのかを明らかにする事を目的としている。 2015年度は、第1にホンジュラスのラ・エントラーダ遺物収蔵庫内のモザイク石彫の出所場所の再検証、第2に現存する近現代建築物に再利用されているモザイク石彫の状況確認と写真データの収集を行った。 第1の活動によって、今まで発見する事ができなかった各考古学調査プロジェクトのモザイク石彫実測図原図、遺構図面原図、ネガ・スライド、遺物や写真台帳のオリジナル、経理書類、報告書、論文などを発見する事ができた。これらの資料を基に収蔵庫内に保管されているモザイク石彫について検証したところ、263点中186点のモザイク石彫について、出所場所や寄贈経緯を明示する事ができ、研究資料として使用できる状態にする事ができた。 第2の活動では、サンティアゴ・デ・ポスタ教会、ラ・エントラーダ市中心地の教会、故ホセ・エドゥアルド・ガウヘル・カルドナ医師宅に建築資材として再利用されたモザイク石彫を現地で実際に確認し、モザイク石彫合計161点の写真データを得る事ができた。これら3か所にモザイク石彫が再利用されているという事は、既に80年代の考古学プロジェクトにおいて報告されていたが、自身の現地調査で初めて、現存する全てのモザイク石彫データを保存状況と共に、写真データとして提示することができた。極めて貴重な資料を提示できたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、ホンジュラスのラ・エントラーダ収蔵庫でのモザイク石彫実測などの計測作業を予定していたが、現地訪問時には、収蔵庫の作業場所に重要なオリジナル台帳や図面などが事務書類と混在する状態で大量に放置されていた。そのため、重要資料の紛失を防ぐべく、計画を変更して資料整理を行った。今まで発見する事の出来なかったオリジナルの各種台帳、モザイク石彫原図などの貴重かつ重要な資料を今回初めて発見する事ができた。これらのオリジナル資料を基に、ホンジュラスのラ・エントラーダ収蔵庫に保管されているモザイク石彫の再検証を行い、186点の出所場所が判明した。また、近現代建築3か所に再利用されたモザイク石彫の現地確認作業では、モザイク石彫161点が存在する事が判明し、かつ現在の保存状況と共に提示する事ができた。これら大多数のモザイク石彫は考古学調査で得られた資料ではないが、ホンジュラス国内で現在確認されているコパン周縁約150k㎡に点在する689遺跡でのモザイク石彫使用の有無や、各遺跡におけるモザイク石彫の特徴やモチーフを外観する上で、非常に重要な資料となり得る。 今年度の調査活動で得られた資料から、地方センターでは中心グループであっても、コパンのアクロポリスの様な公共施設に使用されるモチーフや表現方法よりも、居住用建造物に見られるモチーフや表現方法が多い傾向にある事が分かった。また、コパンのモザイク石彫と酷似したものがある一方で、コパンには見られない表現方法のものも存在しており、これらについては引き続き分析を進めて行くこととする。また、人物像の頭飾りとなる神格化したモンスター頭部については、何れもコパンのものと酷似しており、独自性は見られない。以上の通り、計画の予定変更はあったものの、今回発見できた新資料に基づいて地方センターのモザイク石彫を俯瞰する事で、一定の傾向を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
地方センターのモザイク石彫のモチーフや表現方法の傾向を見出すことができたが、より詳細な分析を行う必要がある。2015年度は2名を現地雇用し、研究資料として使用可能なモザイク石彫の重量、大きさなどの計測作業も実施したが、中には20kg~60kgを有する重量のものや、劣化が著しいものなど、取扱いに細心の注意を払わなくてはならないケースがあり、全てを計測する事はできなかった。そのため、2016年度も引き続き、現地雇用し、計測作業を実施するとともに、それらデータを比較分析する。 これまでのモザイク石彫の分析から、エル・アブラ遺跡からは多くのモザイク石彫が確認されている事、他遺跡とは異なる装飾が多く見られる事、コパン王との関係を示すアラバスタ―製容器が確認されている事などから、本遺跡での発掘調査を予定している。しかし、現地調査時期が雨期にかかる事、治安面の問題から実施できない可能性もあるが、現時点では発掘調査を予定している。 2015年度に完了しなかったネガ・スライドなどのデータ化やモザイク石彫の再検証を次年度も継続して実施する。また、現地調査できなかった現代建築1件に使用されているモザイク石彫の確認作業を実施する予定であるが、今もなおモザイク石彫を使用した建築物が現存しているかは不明である。本建築物の所有者とコンタクトを取るのが難しく困難を極めているが、現存状況を把握するためにも継続して確認作業を進める予定である。
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Research Products
(5 results)