2015 Fiscal Year Annual Research Report
磁性及び抵抗スイッチング機能を同時付与した酸化物薄膜の創成
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15J06927
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉山 一生 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | メモリ / Liイオン / 電気化学 / 薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
小型電子端末の高機能化・省電力化に伴い、メモリ素子にはより高密度な記録、消費電力低減のために、多値化・不揮発化が強く求められている。この要請を受けて本研究では、酸化物薄膜中の酸素イオンを電圧によって駆動し、導電性や磁性の不揮発スイッチング機能を付与することを目的としていた。実際にZnO単結晶に局所領域で電圧を印加するなどの実験を行ったが、絶縁破壊を起こしメモリ動作が難しい状況であった。そこで、本研究ではイオン伝導性の高いLiイオンを含有する材料に対象を変更し、複合機能メモリの開発を行うこととした。 本年度は、Liイオンの特性を利用し、デバイスが自発的に持つ電圧をスイッチングする画期的なメモリデバイスの開発・動作検証に成功した。Liイオンの電解質を異種の金属で挟むと、金属電極間に自発的に電圧が発生する。その電圧は、Liイオン電池と同様に、デバイスに電荷を出し入れすることで不揮発に制御できることからメモリへと応用が可能である。 実際に、Li/Li3PO4/Auの縦型積層デバイスを作製してその動作を検証した。デバイスに対して0.18 Vを印加した後に開回路電圧(OCV)を測定すると、0.3 Vを保持した(低電圧状態)。一方で、デバイスに2 Vを印加した後にOCV測定を行うと、デバイスは0.7 Vを保持した(高電圧状態)。このことから、デバイスは電圧印加によって高電圧状態と低電圧状態の間でスイッチングできることが確認された。必要とされる電荷量は、DRAM等既存の低電荷メモリデバイスと比較しても小さいことから、低消費電力と高速動作を両立できると考えられる。更に、交流インピーダンス測定を行ったところ、デバイスに対する電圧の印加により抵抗値もスイッチングしていることが示された。これらのことから、本年度の研究成果により将来性の高い高性能・複合機能メモリデバイス開発の端緒を掴んだと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、酸化物薄膜中の酸素イオンを電圧によって駆動し、局所的に酸素過剰状態・酸素欠乏状態を作り出すことで、導電性や磁性の不揮発スイッチング機能を付与することを目的としていた。 この目的のもと、ZnO単結晶に対して原子間力顕微鏡(AFM)関連手法を用いて電圧を印加し、更に磁気力顕微鏡や導電性AFMなどにより電圧印加部を含む領域での磁性・導電性の測定を試みた。しかしながら、電圧の印加により可逆的な物性のスイッチングを起こすことができず、電圧を徐々に上昇させていくと物性の変化が起きる前に構造が大きく変化し、絶縁破壊を起こしてしまった。酸化物は一般に酸素イオンの伝導率が低く、イオン伝導には高温や高電圧が要求される。その一方で、酸素イオンが動きやすい条件下では相変態等の構造変化も起きやすく、不可逆的な変化を引き起こしてしまう可能性も高い。このような背景を鑑み、本研究ではイオン伝導性の高いLiイオンを含有する材料に対象を変更し、複合機能メモリデバイスの開発を行うこととした。 予期せず研究対象材料の変更を余儀なくされたが、本年度の研究によりLiイオンダイナミクスを活用した新規メモリデバイスの動作検証に成功しており、当初予定に相当する結果は得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本年度に開発したLiイオンを活用したメモリデバイスの動作原理の解明に取り組む。 動作原理は、電極内でのLiイオンの振る舞いと、固体電解質内でのLiイオンの振る舞いとを明らかにすることが出来れば解明できると考えられる。このうち、電極内でのLiイオンは、電極金属と合金相を形成していると考えられることから、極めて単純な形で考えることが出来る。一方で、固体電解質内でのLiイオン分布には不明瞭な点が多い。そこで、デバイスに対して電圧を印加した際に、Liイオンがどのように分布するのかを明らかにするため、電圧を印加しながらin-situでの空間分解組成分析を行う。特に、ラザフォード後方散乱や核反応分析法、中性子反射率法等の手法を複合的に用いて解析を行っていく予定である。 ラザフォード後方散乱と核反応分析法はいずれも試料深さ方向の組成分布を測定する手法であるが、ラザフォード後方散乱は重元素を得意とし、核反応分析法は軽元素を得意とする。これらの手法を組み合わせることで、比較的軽い元素から比較的重い元素までを含むLiイオン固体電解質内の組成分布を明らかにすることが出来る。 上記手法の深さ分解能が100 nm程度であるため、電極/電解質界面近傍の組成には解明できない点も残る。そこで、深さ分解能がより高い中性子反射率による測定を行い、ラザフォード後方散乱と核反応分析法の結果と合わせて考えることで、界面ごく近傍の領域から深さ20 μm程度の領域まで、組成分布を明らかにすることが出来ると考えている。
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Research Products
(11 results)