2015 Fiscal Year Annual Research Report
「日本国際美術展(東京ビエンナーレ)」再考―戦後日本の美術史形成に関する研究
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15J07100
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
山下 晃平 京都市立芸術大学, 美術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 日本国際美術展(東京ビエンナーレ) / 現代日本美術展 / 野外美術展 / 戦後美術史 / 国際的同時性 / 日本固有の文脈 / 「近代」批評 / 「美術(芸術)」制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究に関する資料の収集は、4月から10月にかけて継続的に実施した。その研究成果として、博士論文に以下の5点の資料を作成した。「日本国際美術展(東京ビエンナーレ)年表」「日本国際美術展(東京ビエンナーレ)に関する言説の掲載状況」「日本国際美術展 日本人作家の推移表」「現代日本美術展 年表」「「読売アンデパンダン展」変遷の要点」となる。これらの資料は、戦後日本の美術において重要な役割を果たしてきたが、その総体が明らかではなかった国際美術展また大型美術展の内実を視覚化しているため、研究目的に掲げたように、今後の戦後日本美術史研究に活用し得るものとなっている。 また京都市美術館に「日本国際美術展」に関する資料の閲覧を依頼し、これまで未公開だった京都市美術館会場での「日本国際美術展」の展示状況を示す重要な画像資料を確認することができた。京都市美術館の許諾を得て、その画像資料の一部を博士論文に掲載し、公開した。「日本国際美術展」に関しては、これまで中央である東京都美術館での資料や画像のみが流布していたため、本資料の公開は重要な意義がある。 10月に開催された第66回美学会全国大会(早稲田大学)では、これまでの収集・分析によって得た戦後の大型美術展と「美術」制度との関係をテーマとした研究発表を行った。この発表内容については、修正と加筆したものを1月に『京都市立芸術大学美術学部研究紀要』第60号に寄稿した。 以上のように本年度は資料収集・調査を中心に進めつつ、その成果を美学会で発表し、また10月に博士論文を京都市立芸術大学に提出した。博士論文は、「日本国際美術展」の包括的な研究成果に基づき、戦後の大型美術展の構造的な変化とその文脈に関して、特に近代の「美術」制度受容の問題と日本の文化的なコンテクストの表出に注目して、日本の美術界総体の位相及び価値基準の問題を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請した研究計画に基づいた、資料の収集及び現地調査・インタビューの実施、またその成果を踏まえた研究発表について計画通りに実施することができた。 資料収集は、「日本国際美術展」を主としつつ戦後日本における隔年及び通年開催する大型美術展について、また60年代以降の野外美術展について、各美術展の図録・言説資料・広報物などの資料を収集し、整理・分析作業を行った。収集は、国立国会図書館、各大学図書館、各県の図書館、資料館等に出張して行った。さらに、50年代から90年代にかけての「国際的同時性」の批評に関わる言説資料及びメルクメールとなる海外での美術展についての言説及び写真資料についても、上記の施設で調査した。 フィールドワークについては、9月に滋賀県沖島、10月末に大分県国東半島で現地調査を行った。ただし、予定していたアジアの国際美術展調査については、開催期間の変更のため次年度の予定としている。 本研究対象である戦後の大型美術展に関わる主催者・作家・美術評論家へのインタビューも実施した。日本国際美術展(通称、東京ビエンナーレ)に関しては、8月に千葉で美術評論家の峯村敏明氏に面会した。また80年代、野外美術展の調査に関しては、10月に「BAO芸術祭in 沖島」の企画者であり彫刻家である吉川恭生氏に京都で面会し、2月には「JAPAN牛窓国際芸術祭」でディレクターを務めた千葉成夫氏に中部大学でインタビューを行った。また、シンポジウム及び美学会、表象文化論学会、美術史学会、日本アートマネジメント学会の研究発表会及び全国大会にも参加し、日本の戦後美術を研究している研究者と意見・資料交換を行う機会を得た。 以上の過程を終え、本年度は研究調査の成果として10月に博士論文を京都市立芸術大学に提出し、これまでの理論と実践を一つの論考に集約できた。また次年度の研究に向けての準備も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、本年度の研究成果を踏まえ、比較対象としていた80年代の野外美術展の変遷とその文脈に焦点を移行し、研究・調査を行う。研究計画には90年代以降の新興の大型美術展を資料対象に加え新旧の構造比較を検討していたが、その移行期にあたる80年代の日本の芸術環境をより精査する必要があると考えた。継続的な収集資料・インタビューの分析と理論的考察を踏まえて、研究発表・学会誌への投稿を予定している。(2016年5月に美学会西部会で研究発表を予定している。) また研究計画に記載していたように、80年代の野外美術展を素材とすることで、戦後の「美術」の拡大あるいは「ポストモダン」の諸相について、日本文化論・思想史・社会学の視点も参照していきながら、日本の「美学」のあり方についても検討していく。 以上のように、本年度に行った言説史的アプローチを方法論としつつも、理論および実素材の研究対象を移行させることで、結果として、本研究課題である戦後日本美術史の「形成」過程をより多面的に捉え得ると考えている。
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Research Products
(2 results)