2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J07224
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
矢野 孝明 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 4π電子環状反応 / ホスホン酸エステルの置換基効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
以前、我々はアシルホスホン酸エステルの光環化反応が通常のケトンと比較して速く進行することを見出していた。この反応は、アシルホスホン酸エステルに光を照射することで生じたオルトキノジメタンから4π電子環状反応によって進行すると考えられ、ホスホン酸エステル基が置換することで4π電子環状反応が促進されると考えられる。しかし、4π電子環状反応におけるリンの置換基効果はこれまで明らかにされていなかった。本研究では4π電子環状反応におけるホスホン酸エステル置換基の効果を実験的に検証した。まず3位にホスホン酸エステル基を有するシクロブテンを合成し、その開環反応を行った。 無置換シクロブテンは140℃、1時間で12%消費され開環したのに対して、同条件下ホスホン酸エステル置換シクロブテンは31%消費された。すなわち無置換のシクロブテンとの比較からホスホン酸エステル基が置換することで4π電子環状反応が若干ながら促進されることがわかった。 3位に置換基を有するシクロブテンは開環した際にブタジエンを与えるが3位の置換基の回転方向によってE/Zの幾何異性体を与える。一般的に電子供与性の置換基は外側に回転しE体のブタジエンを与え、電子求引性の置換基は内側に回転しZ体のブタジエンを与えることが知られている。今回合成したホスホン酸エステル置換シクロブテンはE/Z=40/60で対応するブタジエンを与えた。DFT計算を行い、NBO解析をしたところ、切断されるC-C結合の電子がP-Oσ* 軌道に流れこむ挙動が観測できた。これにより遷移状態が安定化され内向きの回転が優先されたと考えられる。 以上からオルトキノジメタンの4π電子環状反応においてもホスホン酸エステル基が内側に置換することで閉環が速くなることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の想定では酸塩化物からの光による触媒的ベンゾシクロブテノン合成を達成する予定であった。しかし、酸塩化物からの光による触媒的ベンゾシクロブテノン合成を様々な反応条件下で試みたが、思うように反応は進行しなかった。その理由を調査したところ、塩基存在下ではアシルホスホン酸エステルの光環化反応が進行しないことが明らかになった。 一方で4π電子環状反応におけるホスホン酸エステルの置換基効果について明らかにした。ホスホン酸エステル基を有するシクロブテンを合成し、その開環反応を行うことで4π電子環状反応においてホスホン酸エステル基が置換することで特に内側の回転が加速されることがわかった。この結果からアシルホスホン酸エステルの光環化反応が通常のケトンと比較して速く進行するのはホスホン酸エステル基が置換したためであることが実験的に確認された。 以上を総合して判断すると概ね順調に研究課題の解決は進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
酸塩化物からの光による触媒的ベンゾシクロブテノン合成に関しては塩基存在下でアシルホスホン酸エステルの光環化反応が進行しないことが明らかになったため、塩基を用いないアシルホスホン酸エステル合成を開発する。具体的には、Michaelis-Arbzov反応を用いることを考えている。この反応は3価のリン化合物と酸塩化物からアシルホスホン酸エステルを合成する反応であり、塩基を用いない。 光による分子間C(sp3)-H結合のアシル化について検討する。現在、等量のp-キシレンとアシルホスホン酸エステルに光を照射すると33%の収率でヒドロキシホスホン酸エステルが得られている。これはキシレンのベンジル位のアシル化に繋がる結果である。反応条件を精査することで収率の向上を目指す。それが達成された後にはベンジル位以外のC(sp3)-H結合についてもアシル化を検討する。
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