2015 Fiscal Year Annual Research Report
初期サーンキヤ哲学における統覚・自我意識・思考器官:その思想的背景と独自性
Project/Area Number |
15J07295
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 健二 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | サーンキヤ哲学 / 思考器官 / 統覚 / 自我意識 / ヴェーダ文献 / マハーバーラタ / 創造説 / 創造主 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、初期サーンキヤ哲学の教説、特に創造説の文脈における、統覚・自我意識・思考器官という三つの精神的原理の概念の発展を対象としている。平成27年度は三つの精神的原理のうち思考器官の概念を中心に研究を行った。また博士論文で扱う予定のテキストのうち約半分の英訳が終了した。 第16回世界サンスクリット学会(タイ、バンコク)では、初期サーンキヤ哲学におけるある創造説における思考器官の概念を分析し、先行思想からの連続性とその創造説の独自性を指摘した。第26回西日本インド学仏教学会(広島)では、思考器官が中心的な役割を果たす初期サーンキヤ哲学のいくつかの創造説において、思考器官の性質を顕現とするか未顕現とするかについて、見解の不一致があることを示した。第7回国際インド学大学院生研究シンポジウム(オランダ、ライデン)では、古典期ヨーガ学派が、サーンキヤ哲学の創造説の体系をどのように自派の瞑想の体系に組み込み、またいかなる点においてヨーガ学派がサーンキヤ哲学と異なるかについて考察を与えた。またヘント大学(ベルギー)にて、自身の研究の紹介として博士論文の全体的な構想について一般講演を行った。第6回ヴェーダ文献研究会(仙台)では、初期サーンキヤ哲学において用いられる中性名詞adhyatmaについて、先行研究における文法的誤りを指摘し、ヴェーダ文献からその用法をたどり、「自己・個体に関するもの・こと」とするのが最も文法的に正しい解釈であることを指摘した。 (1)これまでの文献学的研究ならびに言語的研究を反映し、詳細な注釈をほどこした英訳を作成していること、ならびに(2)先行研究においては思考器官は注目されてこなかったが、思考器官に注目することで先行思想であるヴェーダの祭式学からの連続性と、その独自性が明らかにできること、に本研究の意義と独自性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の前半は、従来の先行研究ならびに、平成27年度中に発表された諸研究の検討を行い、今後の研究の進め方について軌道修正を行った。当初は初期サーンキヤ哲学における三つの精神原理である、統覚・自我意識・思考器官の全てを扱う予定であったが、思考器官に焦点を当て、思考器官との関係において統覚ならびに自我意識を扱うことした。研究の軌道修正の理由ならびに、それに伴う研究計画の変更については、下記の「今後の研究の推進方策」で詳述する。本研究は主に、(1)博士論文で扱うテキストの英訳、(2)研究成果の学会での発表ならびに論文の投稿を軸としている。 テキストの英訳については、平成27年度は、4月-8月は研究員の所属する京都大学においてDiwakar Acharya准教授の下、9月から3月は研究指導委託先のライデン大学(オランダ)においてPeter Bisschop教授の下、それぞれ研究ニッ従事したが、それぞれの大学において自身の博士論文についての研究会を週1回程度開いていただき、テキストを読み進め、博士論文において英訳予定であったテキストの約半分の英訳が終了し、テキストの英訳については期待以上の成果が得られた。 また研究発表も同時に行った。特に思考器官が主たる役割を果たす創造説については、第16回世界サンスクリット学会ならびに第26回西日本インド学仏教学会において、ヨーガ学派におけるサーンキヤ哲学理論の導入については、第7回国際インド学大学院生研究シンポジウムにおいて、またテキストの言語学上の問題については第6回ヴェーダ文献研究会において、また自身の博士論文の構想ならびに、その意義や重要性については、ヘント大学での一般公演において発表するなど、当初予定していた研究発表を行うことができたが、研究論文の投稿を行っておらず、平成28年度中にそれぞれの学会誌などにおいて行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
先行研究における問題点を再検討し、さらに最新の研究の結果を鑑みて、申請時の研究計画の修正を行った。具体的には、当初は初期サーンキヤ哲学の三つの精神的原理である統覚・自我意識・思考器官の全てを研究対象にする予定であったが、受入研究者との相談の上、以下の4つの理由により、思考器官を重点的に扱い、統覚ならびに自我意識については思考器官との関係において扱うこととした。(1)先行研究において思考器官に注目する視点がないこと、(2)研究の過程で、初期サーンキヤ哲学とその先行思想であるヴェーダ文献との連続性について、思考器官が最も重要な役割を果たしていることが判明したこと、(3)三つの精神原理の全てについて綿密な研究を行うことは三年間では難しいこと、(4)平成27年に、Fitzgerald が初期サーンキヤ哲学の統覚について包括的研究を発表したため、自ら彼の研究を一からやり直すよりも、彼の研究を踏まえた上で統覚と思考器官との体系的整合性を研究する方が有用であること、である。それに伴い、博士論文において英訳を行うテキストの範囲を、『マハーバーラタ』第3巻203章、ならびに、第12巻175-180章、203-210章、224-225章、そして『マヌ法典』第1章に定めた。 平成28年度には全ての英訳を完成させる予定である。また平成27年度に行った学会発表を論文として各学会誌に投稿するとともに、ヨーガ学派に受け継がれた初期サーンキヤ哲学の解明、ヴェーダ文献との連続性、扱うテキストの言語学的分析や引用関係や年代について研究を進め、学会発表ならびに論文を投稿し、平成29年度は思考器官と統覚ならびに自我意識との体系的連関性について研究を進めるとともに、これまでの成果をまとめて博士論文を完成させる予定である。
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Research Products
(7 results)